第5話 Eine Öffnung~はじまり(5)

よく



運命の出会いって




身体に衝撃が走るとか



予感があったとか




そう聞くけど



まちがいなくその時の私はその場に固まるだけで



何の感情も湧いてこなかった。




彼は眠そうに目をこすって



「・・なに見てんだよ、」



ボソっとそう言われて、魔法が解けたみたいにハッとした。




「い・・いえ、」



日本語で思わず返すと




「あれ? 日本人? ガイジンじゃないの?」



彼は大まじめにそう言った。



「厳密に言えばハーフですけど・・・」




別にこの人に厳密な説明なんかすることないのに。





10歳で日本に帰ってからは、普通の日本の学校に通ったが



見かけが外人風だった自分はみんなから好奇の目で見られ



そして、日本語もおぼつかなかったこともあって



友達なんかひとりもできなかった。



日本人の中に入ると外人で



外国人の中に入ると日本人で




私ってなんなんだろうって



この見た目がすごく恨めしかった。



初対面のこの人にも



いきなり



『ガイジン』なんて言われて



だんだんと腹立たしくなってきた。



プイっと彼から顔をそむけるようにバッグにノートをしまいこんだ。




それでも。



「ねえねえ、」



後ろのその男はしつこく話しかけてきた。




無視をしてそのまま立ち去ろうとすると、いきなり彼は私の前に回りこんできた。



「・・・!!」



びっくりした。



その行動ではなく



ものすごい大男だったから。




その上




「なんで逃げんだよ、」



インネンまでつけられて



「にっ逃げるなんて・・」



すごく


すごく



怖くなって声が震えてしまった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る