第4話 Eine Öffnung~はじまり(4)
真尋と私が出会ったのは
19の秋。
ウイーンの音楽院だった。
歌劇場や美術館が立ち並ぶ都市部に近い場所で
生まれて6歳まで過ごしたこの場所が自分にはとても懐かしかった。
その後はNYに移って、そして10歳の時に両親が離婚して母と共に日本に戻ってきた。
だから
どちらかと言うと今でも日本よりもウイーンのこの空気が落ち着く。
東京の高校を卒業した後、母の勧めもあってウイーンの音楽院でピアノ講師を勤める父の元へやって来た。
両親は離婚をしたとはいえ、憎み合って別れたわけではなかったので
自分のことでよく連絡は取っていたようだった。
私の将来を考えて
別れた夫のところに娘を送り出してくれた。
少し離れていたけど、周囲のドイツ語を聞いていたら自然に言葉も当時のようにスッと出てきて。
新しく始まるであろうこの世界が楽しくてたまらなかった。
音楽院の授業はもちろんピアノを弾くだけでなく
音楽史やアナリーゼなどの授業もある。
この学校は留学生も多かったけれど、基本授業は全部ドイツ語だった。
だから海外からやって来た人たちは、別にドイツ語の授業もあったりして
その時間を割かなくて良かった自分は他の留学生たちよりも余裕があった。
ある日の講義中。
ずうっと後ろでイビキが聞こえるのが気になった。
まったく
そんなに寝たいのなら授業に来なければいいのに。
元々生真面目すぎるくらいだった自分には考えられなかった。
その人はとうとう授業の最初から最後まで寝っぱなしのようだった。
授業を終えてチラっと後ろを見ると
「ん~~~~、」
ようやくお目覚めのようだった。
坊主アタマにシルバーのピアスが印象的で。
「やっべ~~~、寝てた・・」
そして
日本語。
思いっきり目が合った。
ぎょろっとした目と無精ヒゲ。
怖くてすぐにその場を離れればよかったのに
蛇に睨まれたカエル。
そんなことわざが日本にあったっけ。
なんて呑気なことを思い出したりするほど
その場で固まってしまった。
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