羊数え

@chased_dogs

羊数え

 羊を数えましょう。


 草原に、羊を数える人がいます。

 羊を数える人は、羊を数えています。


 白い羊が一匹。白い羊が二匹。黒い羊が一匹。

 白い羊が三匹。黒い羊が二匹。黒い羊が三匹。


 黒い羊が涼しい木陰から出てきました。すると、黒い羊は白い羊になりました。影が映って黒くなっていたのでした。


 白い羊が五匹。白い羊が六匹。黒い羊が三匹。

 白い羊が七匹。黒い羊が四匹。黒い羊が五匹。


 黒い羊が一匹、何やら持ってやってきました。それは手紙でした。妹の結婚式の招待状でした。

 羊を数える人は、その黒い羊に暇を与えることにしました。



 白い羊が八匹。白い羊が九匹。黒い羊が五匹。

 白い羊が十匹。黒い羊が六匹。黒い羊が七匹。


 突然、強い風が吹いたかと思うと、白い羊が一匹、二匹、三匹と、風に吹かれて転がりました。

 ……転がりました? いいえ。転がりませんでした。それは白い大きな綿でした。


 白い羊が八匹。白い羊が九匹。黒い羊が八匹。

 白い羊が十匹。黒い羊が九匹。黒い羊が十匹。


 次に桶をひっくり返したような大雨が振りました。羊は皆しとどに濡れています。

 哀れな白い羊の二匹など、体中の毛が溶けて真っ黒になってしまいました。足元には白い泥濘ができています。

 おや、変ですね? 羊を数える人が鼻を利かすと、それは小麦粉の匂いでした。実は昨晩、黒い羊が頭から小麦粉を被っていたのです。それで黒く見えなかったというわけです。


 白い羊が九匹。白い羊が十匹。黒い羊が十三匹。

 白い羊が十一匹。黒い羊が十四匹。黒い羊が十五匹。


 天気はますますおかしくなり、風は吹くわ雷は降るわ、泥は舞い散るわ。

 羊など、みな泥にまみれて真っ黒です。

 それだけではありません。嵐がやってきました。羊嵐です。


 空から羊が落ちてきます。何匹も? 何匹も!

 空へ羊が舞い上がっていきます。何匹も? 何匹も!

 家も、木も、茨も、全部が滅茶苦茶になりました。


 嵐が過ぎると、あたり一面、羊だらけ。

 早速、羊を数えてみましょう。

 けれど、羊を数える人が見当たりません。

 嵐で飛ばされたのでしょうか?

 これでは羊は数えられません。


 羊の数は分からなくなってしまいました。

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