ED あなたを一生
多くの国民に見送られ、たくさんの荷物を乗せて馬車は出発する。ちゃっかり私も同乗した。
持ち込んだ新聞から自国の心温まるニュースを読み上げる。
次に地中帝国の成り立ち、文化の説明。
思い出話も沢山した。
雷に怯えて泣いた姫様を一晩中励ましたこと。
迷い込んだ犬の飼い主を探したこと。
庭園に花を植えたこと。
話題は尽きることのないまま、やがて目的地に到着した。
本来ならメイドはここまでだ。
別れを告げようとする姫様に、中を見たいと駄々をこねて付いていく。
貴重品を抱えたまま、国の中へ。
隣国は栄えており、あちこちハイテクな機械で彩られている。
街頭テレビを見た姫様が口をあんぐり開けた。
「すごい。なんて大きいの」
「こんなテレビでベラ様を観れたら素敵ですね」
「そうね」
ふふっと笑った姿勢のまま姫様は固まった。
ニュース画面が急に切り替わり、ベラドンナの姿が映されたからだ。
「えっ?」
「やっほー姫様ー! いつもお手紙ありがとーう! 引き抜かれたんでこの国で音楽活動する事になりましたー!」
「引き抜かれた? 誰に?」
「それはもちろんクラウディ王子さ! 姫の隣のね!」
姫様はゆっくりこちらを向く。
それと同時に近くのスタジオからベラドンナがバンドメンバーと共に現れた。ジャカジャカジャカとギターをかき鳴らして叫ぶ。
「結婚おめでとう!」
周りに集まった国民たちも笑顔で拍手をしている。「可愛いお姫様」「マジ天使」と口々に褒めながら。
「レイン、どういうこと……?」
「騙してすみません。私はこの国の王子クラウディ。手紙をくれないあなたのことが気になってメイドとして潜入していました」
姫様は顔を真っ赤にして私の頰を叩いた。
更に反対側からも叩いた。
「ひどいわ、わたくしの気持ちをもてあそんで! 許さないんだから!」
「申し訳ありません」
「お詫びに一生大切にしてくれる?」
「もちろんです。あなたには一生美味しいものを食べてもらうと決めていますので」
私は彼女を抱きしめた。
国民がヒューヒューと囃し立てる。
ベラドンナの熱いギターに祝福されながら、口づけを交わした。
終わり
歌姫に恋するお姫様に恋するメイドの私 秋雨千尋 @akisamechihiro
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