第9話 双子の姉妹


 部屋に戻ったリルフはというと――

「信じられないあんなもの達を招くなど。

 だから嫌だったのに。

 こんな馬鹿げた遊びを言いだすんじゃなかったわ」


 彼女は真実悔しそうにしていたが、音に気がつきハッとする。

(誰か来るのか。もうそんなに時間が経っていたのか。

 父さんの話は長いから明日になると思ったのに)


「失礼いたします。リルフ様」

「どうぞ」

 冷たく愛想のない声音と顔も立ち振る舞いも氷の様に意識を高める。

 使用人の誘導で中に入ってくるたびの者達に

 自分の領域を荒らされたようで苛立った。


「で、要件は? ないのだったらお引き取り下さい」

 女は媚びるでも𠮟るでも恐れる様子もなく彼女に言い放つ。

「これからよろしくお願いいたしますね、リルフ」


 名前を呼ばれたのは初めてだった。

 その驚きでつい、表情を崩してしまった。


「言いたかったのはこれだけです。また明日ね」


 後ろに控えていた男が唖然としていたように、

 ポカンとした反応が普通なはずなのに彼女は

 当然の様に微笑んで帰って行った。


「久々に面白そうな人が来たじゃない」

 ついうっかり素を出してしまったけれど

 これからが楽しみだと頬を緩ませたのだった。



「こちらがお2人の部屋になります。ご自由にお使い下さい」


 お決まりの台詞を言い残して去っていった使用人を見送って女は息を吐きだした。

「やっと息がつけるわ。敬語の生活って疲れるったらないよ」


「それにしても凄いじゃないか。あの荒れている少女の素顔を1日目にして見れたんだ。報酬が来る日も近いんじゃないか」


「バカ言わないでよ。そんな本音出したら彼女はますますガードを固くしちゃうわ」


「気持ちがやけに分かるじゃないか」


「そりゃね。あんな優秀な姉様がいたんじゃあなにかと辛いこともあるんでしょう」

「あの話で親近感がわいたってことか」

「そうかも知れないわね。

 今はあの子を第一に考えてあげられる人物が必要なのかもね」


「へぇ――おい小瓶開いてないか?」

「え?」


 示された荷物を見てみると確かに小瓶のふたが少し開いていて白い靄が……


「やだ。こっちは主の話きいてつかれてんだよ!」

 いつかの様にまた疲れて現われてくれればいいが大抵は。

「だからいい加減にしろよ! なんで俺は外に出られないんだよ」

「「うるさい」」

 シンクロしたいわけではなかったが今回の苛立ちは彼の怒りを超えたようですぐに大人しくなった。

「策としては何をするつもりだ?」

「決まってんでしょ。明日からリルフさんの性格矯正よ」

 そうして余は更けて行った。



「おはようはまだ早い時間ではありますが。リルフのこと頼みましたね」

 まだ外が闇の時刻で意識が混濁している時間帯にリリィの声が聞こえた気がしたのだ。

「了解しましたぁ」

 動かないあたまを回転させてそう告げてまた幻の世界に落ちて行った。

     

「起きろよ! 大体教師が寝坊してどうするんだよ!」

「ネボウ?」

 だんだん意識がハッキリとして今日から新しい生活が始まるのだった。

「そうだったわ今何時?」

「おはようございますわ。教師様」

 リルフは颯爽と現れた。

「これから講義をしてくださるのでしょう?」

 慇懃無礼に話しかける彼女に昨日は感じなかった嫌悪感が噴出してくる。

「あら。わたくしが気に食わないのかしら」

 アリアの顔色を察してかそういう彼女。

(性格を直さないとセンス改善はできないわね)

 改めてそう感じた女は彼女を一対一の面談をすることにした。



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