第8話 賃金交渉と顔合わせ
翌日の太陽が真上に上ったころ、3人は件の屋敷の中にいた。
どこもかしおも高い装飾品に女は固まってしまっていた。
「遅くなってすまなかったな。娘のために来てくれた客人だというのに」
「いやいや。金に連れられ、やってきた客に遠慮することはないさ」
「それはお前もだろうが。まずは紹介料だな。500万だ。」
「紹介料だって!?」
かなり高額である契約成立となったら、
親切にしたと思った宿代など本当に微々たるものだろう。
甘い話には裏があるものだ。
「そうじゃよ。公正だけでそなたたちに話を振るわけがないだろう」
「それに500万って私たちより高いってどうなんですか?」
「しかたないだろう。はじめは10万だったんだ。しかし紹介してくれる人がいなくて値をつりあげていったらこんな金額になってしまった」
カラリとわらう旦那様にはあきれるしかない。庶民では3カ月分の収入からはじめて2年分の金額に釣り上げていったということだ。
「「うむ。早速だが、こちらが双子の姉、リリィだ」
「この方たちがそうなんですの? お父様」
「ああそうだ。ちゃんとご挨拶をしなさい」
「妹をよろしくお願いいたしますね」
しっかりとした敬語に女たちは圧倒されつつも会釈をした。
その時だった。甲高い声が聞こえたのは。
「いやよ。その様な下賤なものとかかわりたくない! 屋敷にいるですって? 冗談じゃないわ。追い出してちょうだい!」
屋敷の主人は「失礼」といい、素早く屋敷の奥に消えていった。
しばらく甲高い声は聞こえていたが暫くすると二つ分の足音が聞こえた。
「先ほどは失礼いたしました。こちらが今日からお世話になるリルフです」
「ごきげんよう。土にまみれたきたない姿の旅の方。これからよろしく」
明らかに蔑みの意味を込めた挨拶をしたのだ。
「リルフ!」
主が咎めるように声をあらげても彼女はどこ吹く風で顔を背けた。
「リルフ、お父様の意見を分かってあげてね。頑張りましょう。……皆さん。会議に出なくてはなりませんのでこれで失礼いたしますね」
姉のリリィは哀しみをこらえた深い瞳を女たちではなく妹にむけて退出した。
「で、私になにをしてくださるのかしら?」
その尊大な態度に父親は我慢の限界らしく、硬く冷たい口調で言った。
「あとでこの方を部屋に案内するからそれまで奥にいなさい」
「は~い。はい。そんなことならいちいちよばないでよ。……獣の癖に」
彼女の一言で主は青白くなったがそれに構わずにせを向けた。
「どうも生意気な子に育ってしまって。それでは娘の詳細をご説明いたしましょう」
主による詳細な説明は夕方まで続いた。
「こんなところでしょうか。明日からお任せしてもよろしいでしょうか?」
2人は長々とはなしだけを聞かされてウンザリしていたがそれを表には出さずに返答した。
「もちろんでございます。では今日のうちにこちらから挨拶をしておきます」
すると主は眦をさげて申し訳なさそうに口を開いた。
「さようでございますか。あれの相手は骨がおれますよ」
(実の娘にそこまでいうものなのかしら)
女は一抹の疑問を抱きつつ案内役の使用人の後に従った。
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