第7話 新たな案件

 ☆☆☆

 老人に案内されて宿屋らしきところへ来た。

「ここなのか」

「ああ。汚いところだが遠慮なく入ってくれ」


 馬屋はちゃんとしていたことはありがたかったのだが

 泊まる部屋はこの世もモノとは思えないほどに汚かった。


「シ、シミが彼方此方にあるわ。座りたく――」


 この宿の主であるじい様が躊躇なく座っているのだから

 ここで固まっているのも失礼だった。

 彼女は意を決して座り、切り出した。

「それで話って何ですか?」

「うむ。ある金持ちの娘の性格を改善してほしいという噂がどこからともなくながれての」

「そんな高貴な人の性格改善ですか――」

「ここいら辺では他の追従をも許さない、大貴族、サドラーゼ家の双子の妹なのだ」

「「双子の妹?」」

 いぶかしんだのも無理はない。

 今の風潮では双子は災厄をもたらす禁忌の子供と呼ばれて蔑みの対象となっているからだ。

「性格を直すってどうすんだ。今の性格がやばいんだよ!」

「ここに書いてあるのだ。広告まで出すことからも親の必死さが分かるってもんだろう」

 爺さんが示したのは2枚の紙だった。

「リリィ・サドラーゼってのが姉なわけか。妹は……」

 その紙には姉の簡単な特徴、趣味と似顔絵が載っていた。

「もう一枚めくってみるのじゃ。確かリルフ・サドラーゼ」

「これが――」

 アリアが言葉を失ったのも無理はない。

 姉のほうは装飾品が極力排除された楚々とした美女だ。

 その姉と対をなすように派手だった。

 化粧は厚く塗りすぎてくすんだ色合いとなり、髪は質が悪そうにカールしていて簪をこれでもかとつけている。


「これはひどいわ。美的センスの欠片もないわ」


「だな。男の俺からみてもこれはひでーな」


「じゃろう。かれこれ2か月前から毎日のようにこのビラがでまわっているわけさ」


「でもおかしくないか。金持ちならなんで教師に強制させないんだ?」


「その金持ちの貴族様には耐えられないくらい反抗でもしたってことなんでしょ」


「悪いとわ思うけど、私たちは急いでいるのです。」


「まってって。それじゃあ、衣装とか金とか報酬としてでるのか?」


「大丈夫じゃろう。

 屋敷の主にかけ合えば出来る事ならするとかいってあったからのぅ。

 その程度はかるくできるはずじゃよ」


「良し。わかった。その主とやらに会いたいんだが……」


「それなら案内する。主様もお喜びになるはずだ」


「待ってよ。あってどうするつもり? 私はそんな仕事受けないからね」


「おまえ募集条件をよんだのか『むすめの性格及びセンスを向上させてくれる旅の方募集・経験豊富な方。すこしでも状態が向上した場合、おひとり様200万の金貨を差し上げる』って」


「200万!――その条件ならやるわ」


 何時かと同じやり取りを交わしつつ、老人はがらりと玄関を開けた。


「じゃあ行こうかの。お嬢様を更生させるために」


 老人は晴れ晴れとした笑みを受けべていた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る