第6話 歴史のお勉強

「先祖の考えなんてわかるよ。知られれば化け物扱いなんだから」

「お前らはどうしたいんだ?」

「私が普通の人間だったらどこか高位の屋敷で働きたい」

「でもお前には無理なんだよな。ガザつなお前にかしずく生活は無理だぜ」

「プッ。ダッハハハ。確かにそれは無理だな」

「ご主人さまは剣でももって踊ってたほうがにあうんだよ」

「うるさいな。綺麗な着物着てみたいんだよ、わるいか!」

「やめとけって。それはもとが綺麗な子でないとはえないからさ」

「どうせ似合わないですよ~だ」

「ご主人さま~。話の論点ずれているから。戻して、戻して」


「わかった。対策を考えるからさ」

「やったぁ」

「話がついたところで。今日みたいに稼ぎながら進もうぜ」

「進むってどこへ?」

「この地図をみてみろよ」


 情報屋から地図をもらったらしい。

 下書き込みがあってわかりにくいが、安物だから仕方ないという。

 現在地から10キロくらい進むと六国連合処刑場って場所がある。

 これは各国で殺人以上の犯罪を犯した者が入れられる施設だ。

「行ってみる価値はありそうだよな」

「なら話は終わりだな。戻るぜ」


 青年は小瓶の中に戻ってしまった。

 お頭も大きな欠伸をしながら部屋に戻っていった。

(こんな自分の稼ぎで宿をとれるなんて思わなかったわ)

「我慢できないほどひどい宿ではないしこれなら維持できそうね」

 言い残して彼女は部屋の明かりを消したのだった。

 彼女は疲れていたのだろう。1分もしないうちにすやすやと寝息が聞こえてきた。



 翌日、小瓶を手にしたままの少女と頭は肩を並べてあるいていた。

 女はさっきからしきりに恨み事を呟いている。

「おまえなぁ。すぐに稼がなくても金が余っているならさきにいえよ~」

「いいじゃん別に減るものでもないし」

 女はずんずんと歩を進める。

「まてってば」

「貴様、のろのろ歩いていってるんじゃない。

 私は一刻も早く刑務所の近くまで行かなくてはならないの! 遊んでいる暇はない!」

「そんなにはやし立てるというのは健康に悪いぞ。なにかあったのか?」

「おまえの思考回路についていくことが疲れたんだ!」

「アイツは何倍もの悪意をすい取っているんだ。早く楽にしてやりたいんだ」

「なるほどな~。随分相方に無理をさせているみたいだしな~」


「分析はいいから。次の街でまた仕事探しだ!」

「俺は今回はやらないぞ。まだかねはあるんだし」

「お前はあてにしていないから居なくなっても問題はない」

「そう言ってる間に町についたわけだ。って何してんだケチ男!」

「あ~すごいぜ! ここの野原。バジルだろ。ローズマリーだろミントにラベンダーまであるぜ。こっちは花がいるのか。幸せすぎるぜ!」

 彼は身をかがめて小さな草花を食い入るように見つめている。

 そんな男の言動に同行者は冷たかった。

「……なにこの男……不審すぎるわ」

「冷めた物言いじゃないの。確かにお前、花のない顔立ちっつうか花の香りには縁がないツラしてんよな」

「私の周りに薫りはいらない。鬱陶しいから。てか顔立ちを見るならあんたのほうが似合わないから」

「あたりまえ。こういう花とかそれなりのところに持っていけばそれなりのねがつくんだぜ」

「本当なのか! それだったら全部集めるぞ」

 すかさずしゃがみこんで手を伸ばした時に声がした。


「フォッフォッフォ! そなたらは花の楽しみ方が分かっておらんようじゃなぁ」

 こえをかけてきたのは街道を歩いていた老人だった。


「そこいらに咲いている花ならばたしかに自然のものじゃからとってもとがめられはせん。だが、すべて取ってよいということにはならんの。少しは考えて行動するのじゃなっ!」


 老婆はそれを言い終わりと同時にお女を杖で殴ったのだ。


「痛い! ちょっとお爺さん。なんでぜんぶとっちゃだめなんだよ」


「あのな、爺さんが言いたいのはこういうことなんだよ。この花を摘み取って稼ぎにしたい奴はたくさんいんの。このまちのひとみんながとっていってもいいくらいには。だからみんなが稼げるように少しずつしか積んではいけないのさ」


「でも他人は関係ないだろ。それ」


「バーカ! そういう考えでつんだのはな、店でばれるか裁かれるかのどちらかなんだぞ。この業界は広く、かつ早いからな。

 そうしたらお前、二度と花屋の敷居をまたげなくなるぞ」

 彼等の怖い脅しと怖い説教を受けて女は力なくうなだれてしまった。

「もうわかったから。花はかかわらないよ」

「さて、支障をきたさない程度はこのくらいかな。金に返還すれば今夜の 宿代は平気だなぁ」

 そう言って男は手持ちの袋にハーブなどを種類別に持っていた袋に入れた。

「じいさん。すまなかったね。こいつは花の接し方なんか知らないものでね」

「まったくじゃ。随分世間知らずな娘じゃのう。ところでお前たち泊まる宿はあるのかい?」

「いいえ。これから探そうとしていたところですが……」

「うちは宿屋をしているのじゃが。とまりにこんか? これからじゃとどの宿も客でいいっぱいだろうしの」

「いいのか 爺さん。けど金に余裕がなくてな。あまり高い宿には泊まれないんだ」

「金は少しまけてやろう。もともと金をとるといってもたかがしれておるから大丈夫じゃよ」

 ただしと爺さんの声が急に低くなった。

「代わりにたのまれてくれないか? 巷ではだれもやらないことなのじゃ」

「どんなことだ?」

「それは……いや。これは宿に着いてから話そう。他の旅人に話がもれても困ることじゃからのう」

 ともかくも馬を引連れてじいさんと彼ら一行は寂れた細い裏路地を進んでいったのだった。

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