第10話 軋轢

 アリアは問題の妹と2人きりで話をすることにした。


「こんな納戸に何の用がおありなんですか?」

「貴女と邪魔のはいらないところで話がしたかったものですから」

「下賤なかたの考えることは分かりませんわ」


 流石にムッとするもののここでは流しておくのが正解だろう。

 此処からが本題だからだ。

 これは刺激しずギてもいけないし彼女に反省させなければならない。


「あなたはお父様に対して反抗的だけれど、どうしてなのかしら」

「理由なんてないわ。父上ははっきりしないし、見ていて苛々しますわ」

「本当にそれだけなの? 昨日会った時には主様のことを獣っていっていたけれどあれは何なの?」

 それをきいて彼女は豹変したといっていいだろう。

「あなたには関係ない!」

「関係はないけれど、お姉さんは心配しているの。彼女に頼まれた以上しっかりと仕事を遂行しなければ」

「それはあんたの都合でしょ! 利益しか考えていない大人になにがわかるっていうの?」

(彼女は16だったわね。私と大差ないのだけど。大人っていわれてもな~)

「私を何歳に見ているつもり? そんなに年は言っていないのだけどな」

 これをきいて彼女は眼を見開いた。

「え? あなた25歳位ではないの? 雰囲気的に成人しているものだとばっかり」


「そんなに年上に見えたとはがっかりだわ。同じ位の年回りじゃないの。仲良く語りましょうよ」

 唖然としている彼女には先手を打つことが大事とばかりに女はお願いをした。

「化粧道具とドレス一式をみせてくれないかしら?」

「……参ったわ。私が外見判断を間違えるなんて」

 彼女は面白半分、困惑半分な眼をしながらも彼女を迎え入れたのだった。


 ☆☆☆


 アリアは装飾品を物色している。

 それを見ながらリルフはこれまでの思いの丈を語っている。

「物心ついたことは姉さんみたいになりたいと思っていたわ。

 だけど大人の目は努力を見てはくれなかった」


「お姉さんとは仲が良くて毎日が楽しかったんでしょう?」


「ええ。血縁関係を知る前まではね。

 12の時にね、父親の話しているのを聞いてしまったの」


『私の娘はリリィだけだ。あんな汚らわしい女の子どもなどしらんな』と――


 所謂、一夫多妻をこの国では認められていない。


 だから問題があるのはリルフだけだと示すために大々的なビラをながしたのだ。

 あの似顔絵だ。

「問題なのは私って何が何でもしたかったんでしょうね。与えられるものはどれも常人のセンスではない組み合わせしか触れたことがなかった」


「馬鹿よね。どっちにしろ教育がなってないって噂くらいたつのに」

「リリィ姐はきづいているだろうけどなにも言わなかった」

 アリアは困ったように頬を書いた。

 なるほど、あの姉にも問題はあるらしい。かばうこともできたはずだが、そうしなかったのには訳があるのだろうか。はたまた親に逆らえなかったのか。

 姉にも調査する必要がありそうだ。


「それはね……」

 言い淀んだ時に当事者が来てくれた。

「お父様に脅されていたからですわ。申し訳ないことをしていました」

「リリィ姉!」

「わたくしは父に近寄るなと言われていました。殺すぞと言われたこともありましたもの」

「どうしてそんなことを?」

 リリィは疲れた笑みを浮かべた。

「リルフは私が望まれている子だと思っていたようですが父の理想ではなかったようです」

「リリィさんにも何か辛い目にあっていたのですか?」

「ええ。父はもっとおしとやかで絵に描いたような、完璧な娘を求めましたわ」

「ねえさんはなんでも器用にこなすじゃない」

 ピアノ、舞踏会でのダンスや話術は確かに有能ではあった。

「年下のリルフにはそう見えたかもしれない。けど父の要求は私の許容範囲をこえていたわ」

 音楽ではバイオリンとハープ、美術では油絵、デッサン

 料理や刺繍は国最高レベルまで求められた。

 その他にも将来、夫を支えるためといって王族興亡の歴史、国の地理関係を即答できるようにする。


「これらすべては私にはできませんでした。ある程度までは行くのですが。思い通りには動かない私を持て余していたのでしょう」


 ナイフを突き付けられた事は数えられないほどあるらしく自分のことで精一杯だったというのだ。

「お前らの出番じゃないのか? 霊親族」


「そうね。主様のところへ行きましょうもちろんリルフさんの恰好をまともにしてからね」

「あの、手伝ってくださいますか? おねえさま」

 リリィは少しいたずらに瞳を輝かせた。

「もちろんですわ。今日一日はじっとしていただきましょう。

 みなさん。協力してくださいね」

 一行が同意を返す前に姉は福と装飾品に触り始めた。

「こりゃながいな」

 男のぼやきは誰も聞いてはくれなかった。



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