第3話 芸の都へ

「さて、とりあえず〝芸の都〟と呼ばれるアレーに行くか」


 そこならば良い仕事が見つかるだろう。


「今からだと一日馬で駆けなくてはならないわね」


 野を横切り、簡素な街道を通り越し、

 通行人の視線を浴びながら目的地を目指して駆け続けた。

 アレーには安全にたどり着けた。

 たどり着いた先で職安の場所を聞いてみる。

 若い女は肌や髪を布で隠し、目だけ出している。おそらく暴漢対策だろう。

「ええっ、稼ぎたい? 馬鹿なことはおよし。此処はもう昔のアレーじゃないんだよ」

「昔のアレーじゃないってどういう」


「言葉通りさ。今は、盗人の都と言ったところかね」

 そう言い残してそそくさと家に入ってしまった。


「とりあえず職安所に行ってみるか」

 職安の前

 街道を通る人々のほとんどは目つきが悪く、誰かを値踏みするように歩いている。

「なんとなく分かる気がするわ」

 稼ぐ求人場所に行ってもこの有様……

「あんた達は肉体労働と机仕事とどっちがやりたいの?」


 迷うアリアに変わり、ジャンが即答した。


「俺達はどっちでもいいんだが、安全なところがいいんだ……」


 求人係の年老いた女はさらに険しい表情になった。


「無理さね。ここには、安全とはかけ離れた仕事しかないね」


「例えば――」


 老婆は持っていた本の中でも最も厚い求人書をパラパラとめくっていく。


「おい、ばあさん。ふざけてんのか?」


 横から見たジャンは苛立ちを露わにした。


「何て書いてあるの?」

 ひょっこりと顔を出したアリアを見て、ジャンは慌てて、

 求人のたまり場から逃げ出した。


「何だったんだろうね?  私はあの娘に花街を紹介して、あげようと思ったのに……」


 ちなみに花街への紹介料の方が給料より高いのだから彼女が惜しい表情をしたのも無理はなかった。


 2人は店を出て街道を歩き始めた。


「ちょっと、痛いってば。なんで急に態度を変えたのよ」


「いいんだよ。安全じゃない仕事だったんだから」


「安全じゃない仕事って何よ」


「お前は知らなくて良いんだよ」


 押し問答の末、店をでたことをアリアは納得してくれた。しかし仕事先が決まらなくなってしまった。


「仕方ないな。野宿は辛いがどうしようにも」


 流石に2日連続で野宿とはきついものがある。


「私達が稼ぐわよ」

 彼女は人目のない路地へと足を進め、小瓶を開けた。

 靄が次第に男の姿を形成する。


「呼んだか?」


「一緒に歌を唄ってほしいの。例えば、主に捧げる賛美歌とか、何でもいいけど此処の人が分かる内容の歌がいいの」


「わかった。その代わり僕のおかげで金が集まるなら、これからは外に出てもいいこと。それが条件だ」


「大きく出すぎ。……でも。いいわよ。でもちゃんとこなしてよね」


 話し合いが済んだ。三人は適当な大どうりの隅に移動した。


 それからの二人は凄かった。二人同時に歌いだす。

 それは育った街でよく歌われていた子守歌。


 いつも声の低いアリアが高い主旋律を完璧に歌い、零は旋律がより引き立つように、低く歌い、強弱や緩急をつけてアリアに併せている。


 ジャンなら此処まで自然に合わせることはできまい。

 ちらほらと銭が投げられる。


「1回の歌でこれだけかぁ」

 宿に泊まるほどのお金ではない。


 多少裕福そうな通りに移動して何回か歌う。

 夕暮れ時にやっと一泊できるだけのお金がたまったのだった。

「これで、泊まれるといいんだけれど」

「俺は?」

「小瓶に戻ってくれる? あなたにかけるお金はないの」

「へいへい」

 レイは希望通りに小瓶に帰ってあげた。優しいところもあるものである。

「今宵の宿はここね」

 

 雑魚寝ができる場所だった。


「その金額なら文句はねぇ。はいりな! 夕食と朝食付きの値段だ」

「これなら大丈夫だ」

 その日の宿は確保できたのだった。

 

 2人はその夜快適に過ごすことができた。


「疲れをとって、また明日から職探しね」

「ああ。やるしかないな」

 夜は更けていった。

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