【 寂しい横顔 】
彼女と付き合い始めてから半年を過ぎた頃、デート中でも彼女は時折、どこか寂しそうな表情を見せるようになった。僕とのデートが楽しくないのか?
隣には寄り添っているけど、どこか淋し気に彼女は髪を耳にかける仕草をする。 僕とのデータが少しマンネリ化してきたのか? それが気になった僕は、思い切って前から彼女が大好きだと言っていた水族館に誘ってみることにした。
「えっ? 水族館に?」
「うん、どうかな? ミライは水族館好きだって言ってたよね?」
「うん、行く行く! 行きたい♪」
「じゃあ、今から行こうか」
「やったぁ♪ ヒトリ大好き♪」
そう言って彼女は僕の首元に抱きついた。
――電車を乗り継ぎ、水族館に到着すると、彼女の表情はいつも通り明るかった。
彼女のトレードマークでもあるピンクの頬壁も一段とキュートだ。
チケットを購入し、館内へ入るとそこはまるで水中の世界のようだった。
大きな水槽の中にマイワシのトルネードが、僕らを迎えてくれる。
「うわぁ~、すご~い。こんなに沢山のイワシ見たことない」
「銀色に光りながらグルグル回って、本当にすごいね」
「ねぇ、こっちにクラゲもいるよ」
「おお~、クラゲも何か青色に光って幻想的だね」
彼女の嬉しそうな横顔に、ちょっぴり安心する。
「もうすぐ、シャチのショーも始まるから、見に行こう!」
「うん」
3階まで上がると、大きなシャチの泳ぐ巨大プールとスタジアムが見えてきた。
お客さんも既に沢山集まって来ている。
僕らは中段の真ん中付近の席にふたりで座った。
ワクワクしていると、間もなくステージ上で元気な女性のアナウンスが始める。
それと同時に、大きな黒と白のシャチが僕たちを歓迎するかのように大きなジャンプを見せる。着水すると、前方のお客さんたちを大きな水飛沫が襲った。
『ザブーン!』
「きゃーっ!」
前の方にいる観客は、もうずぶ濡れだ。中段にいる僕たちの足元にもその水飛沫が届きそうな勢いだ。
「すごいね、シャチってあんなに高く飛べるんだ」
「4メートル以上飛べるらしいよ」
「ええ~っ! あんなに大きな体をしているのに、すごいね!」
「なんたって海の王者だからね。クジラやサメさえ、敵わないらしいよ」
「そうなんだ、すご~い!」
彼女は目を輝かせながら、胸の前に両手をやってシャチのショーを楽しんでいた。
彼女の寂しそうな横顔なんか見たくない。こうして嬉しそうに笑っている横顔が、やっぱり最高だ。
今日、水族館へ彼女を連れて来て、本当に良かった。
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