【 あの頃へ 】
「ヒトリ! お見事~!」
彼女は、明るくそう言う。
「ミライ……」
「ミーちゃん、随分大きくなったね!」
彼女は、初めてここで会った時のように、無邪気に笑う。
どうして、ここに? これも彼女の特殊能力なのか?
もう、そんなことはどうでもいい。僕には、彼女に確かめないといけないことがある。どうしても……。
「ミライ! 一つだけ聞かせて欲しい!」
左手でミーを天高く上げ、川から顔だけ出した状態で彼女に聞く。
「えっ……?」
「僕の1年後に、君の姿は見えるの!? 僕の中に君はいるの……!?」
彼女は驚いている様子。
遠目ではあったけど、彼女は一度瞼を閉じ、ゆっくりと開き、僕を見つめているようだった。彼女の口がゆっくりと開く。
「い、いないよ……」
見えていない。やっぱり、僕らはやり直すことはできていなかった……。
「そ、そうか……。そうだよね。ごめん、突然、変なことを聞いちゃって……」
彼女は、俯いて右手で涙を拭うような仕草をしている。
顔を上げると、笑いながら僕にさよならを言った。
「じゃあ、またね……」
涙声の彼女の声が、橋から響き渡ってきた……。
(これでいいのか……? 自分の気持ちを彼女の未来予知に委ねてしまって。僕自身の手で未来を切り開けないのか……)
自転車に乗り帰ろうとする彼女の姿を見て胸が張り裂けそうになる。
また同じ。あの時と同じように、このまま別れてしまってもいいのか。
自分には僕らの未来を変えることはできないのか。
「ミライ!」
大きな声に、彼女は一瞬ビックリして、こちらを向く。
「ぼ、僕は……、僕は、君のことが、君のことが好きだーーっ!!」
「えっ……?」
知らず知らずのうちに、自分の口からそんな大きな声が出ていた。
「1年後どうなっていてもいい。僕の未来に君が見えなくてもいい……。もう一度、僕と付き合って欲しい! 君の未来も、僕の未来も、全部、自分たちの手で作り上げて行きたいんだ! だから、僕と……、僕とふたりで、未来を切り開こうーーっ!!」
なぜそんなことを言ってしまったのか自分にも分からない。今、動き出さなければ、あの時とまた同じ。そう思ったんだ。
見ると彼女は、俯き肩が揺れている。泣いているよう。
「やっと……、やっと、君から言ってくれたね。それを、それをずっと待っていたんだよ。今……、今、はっきりと見えた……。ふたりの未来が……」
そう言うと、彼女はあの時と同じように、自転車を停め、石の階段を下り、砂利を走ってくる。彼女の長くなった髪が揺れ、ヒラヒラとスカートも激しく揺れている。そして、そのままの勢いで川の中へとダイブした。
彼女の弾ける姿が、この夏の空に大きく飛んで見えた。
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