【 変えられない運命 】
その後、彼女と会うこともなくなった。
どうしても、会えないという。
彼女には、それが見えているから。
あんなにも明るい彼女が、ずっと背負い続けている十字架。
それが彼女の心を苦しめる。
結局、高校を卒業する前に、彼女とは別れることになった。
それっきり一度も会っていない。
大学に入り、付き合ってほしいと言ってきた女の子はいたが、彼女のことを引き摺っていた僕は、どうしてもYESとは言えなかった。
彼女以上に、好きになれる女性は現れなかったんだ……。
未来を変えられなかった自分が情けない。
でも、これもやはり彼女が見た未来、運命だったのかもしれない。
――それから時が経ち、大学2年の7月。
2歳になったミーを抱きかかえて、久しぶりにあの『出逢い橋』へ行った。
ふたりが初めて会話をし、初めて触れ合ったあの場所へ。
空は晴れ渡り、夏の雲があの時のことを思い起こしてくれる。眩しい太陽にこの小さな川の流れがキラキラと反射して綺麗だ。さらさらと水の流れる音も心地いい。
アーチ状の橋の天辺から下に流れる川を覗くと、あの時、ふたりビショ濡れになった場所が見える。ふたり寄り添い一緒に靴や服を乾かした、あの大きな丸い石もまだ残っているようだ。
懐かしそうに橋の中央でこの穏やかな川の流れを眺めていると、突然ミーが僕の胸で暴れ出し、咄嗟のことに僕はミーを腕の中から不覚にもポロリと落としてしまった。
「あっ!」
『にゃ~!』
『ドボーン!』
しまった! 運悪く、ミーが橋の上から川の中へ……。
僕は慌てて、ミーを助けにゆく。
橋の左側にある石の階段を下り、砂利を越えて川の中へ。
見るとミーは、必死に泳ごうとしているが、溺れかけている。
一刻を争う、危険な状態だ。
『にゃ~!』
僕は、咄嗟に頭から川へ飛び込み、必死に泳ぎ急いでミーの元へ。
そして、ミーをあの時と同じように左手で掴まえて助け出す。
「ぷはぁーーっ!」
大きく息を吐き出し、ミーを川の中からこの夏の空へと救い出した。
その時……。
どこからともなく、また、パチパチパチと拍手をする音が聞こえてくる。
川から顔を出し、その音のする方を見ると、あの時と同じように自転車に乗った笑顔のあの人がいた。
僕たちは、この思い出の場所『出逢い橋』で、また偶然、再会したんだ……。
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