【 ドーリーアイ・ビーム 】


 僕らは、ビショビショになりながら川から上がり、濡れた制服の水を川辺の砂利の上で搾り出す。


『ビャシャシャ……』


 そして、夏の日差しに温められた大きな丸い石の上で、靴と靴下を脱ぎ、ふたりで腰掛けた。


『にゃ~』


「その子猫どうしたの?」

「川を流されていたんだ……」


「ヒトリくんが助けてあげたの?」

「う、うん、まあ、そんなところ……」


「ヒトリくんって、やさしいところがあるんだね」

「えっ? ま、まあ、だって、放っておけないでしょ……?」


 あの憧れの彼女が、僕のすぐ隣にいる。

 そんなこと、あっていいのか?

 明日、男子にも女子にも殴られそうだ……。


 そう思っていると、この大きな石の上で、体育座りをしている僕に彼女は擦り寄り、ちょんと右肩が触れた。


 更に、触れる。

 そして、触れる。

 益々、触れる……。


 いや、もうこれは完全に、人生一度も味わったことがない『』というやつだ。


「ねぇ、ヒトリくん。その子猫、私にも抱かせて」


 彼女が僕の顔の10センチにも満たない近い距離でにこにこと笑っている。

 濡れた前髪から滴る雫も、太陽の光の演出でキラキラと輝いて見える。

 これはやばい……。


「い、いいよ……」


 抱いている子猫を彼女に手渡すと、彼女は子猫の脇を抱えながら、更にかわいい声を出した。


「わぁ~、かわいい~」

『にゃ~』


 いや、その子猫も充分かわいいが、今の君の方が何倍も、何十倍も、何百倍もかわいいぞ。

 そう、心の中でツッコミを入れながら、彼女の方をふと見ると……。


 距離5センチくらいのところで、また彼女と顔の動きがお互いシンクロした。


 見つめ合う、見つめ合う、見つめ合う……。


 いや、見ているが、見ていない……。

 見ているが、見えていない……。

 見ているのか、見ていないのか……。

 見えているのか、見えていないのか……。


 彼女がゆっくりとまばたきをすると、突然……。



「ヒトリくん、私たち付き合ってみる?」


 なんてことを言い出す。


(な、な、な、なななのなぁーーーーっ!!)



 僕の思考回路は、完全に彼女のそのかわいらしいドーリーアイ・ビームに、粉々に破壊されてしまった……。



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