【 ふたりの接点 】


「ヒトリく~ん! お見事~!」


「えっ……?」


 僕は、川の中で顔だけ出し、子猫を左手で高々と上げた状態で、その声の主の方を振り返る。


 すると、あの『出逢い橋』の真ん中から、無邪気に自転車に乗って手を振っている彼女を見つけた。


(あれっ? 彼女、確か家は反対方向じゃ……)


「ヒトリく~ん、ちょっと待っててね~!」


 そう言うと、自転車を橋の左端に停め、石の階段を下り、砂利を越えて、川の中へ入ろうとする。

 それを見た僕は咄嗟に、彼女に向かってこう叫ぶ。


「あー、川の中へ入って来なくてもいいよ! ここ滑るから! 僕、歩けるし……」


 でも、遅かった……。


『バシャーーッ!』


 彼女も川底の滑る石に足を取られ、見事に川の中へ全身ダイブした……。


「ぷふぁーーっ!」


 お互い、川の中から、顔だけ出して、お見合いをする。

 お互い、髪まで濡れて、雫が滴り落ちている。


 ふたりの時間が止まり、しばし見つめ合う……。


『にゃ~』


 高々と上げた左手の中にいる子猫が一声上げると、ようやく時間が動き出した。


 そんな子猫の声を皮切りに、ビショ濡れになったお互いの顔を見て、僕らは思わず吹き出した。


「ぷっ……」

「うふふっ……」


「濡れちゃったね……」

「濡れたね……」



 僕と彼女が本当の意味で、ふたりきりでちゃんと会話できたのは、この時が初めてだったと思う……。


『にゃ~』



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