90.投獄

 しばらく待っていると、先ほどの衛兵2人組が一人の女を連れて帰ってきた。

 おばちゃんかと思ったが、その女は若い女だった。

 年齢は10代後半から20代前半くらいだろうか。

 ゆるふわのロングヘアに気弱そうな垂れ目の美女だ。

 ゆったりした服を着ていて極端な猫背なのでよくわからないが、おっぱいが相当でかい気がする。

 この女が私を身体検査してくれるのか。

 最高だな。

 完全におばちゃんが来ると思っていたのでびっくりだ。


「あ、あの、ついてきてください」


「わかった」


 どうやらまた場所を移動するらしい。

 ここでいいだろ別に。

 衛兵の2人がどっか行けばな。

 なんなら私が逆にこの女の身体検査をしてやってもいいくらいだ。


「に、荷物はここに置いて行ってください。兎ちゃんもここに」


「?」


 なぜ荷物をここに置くのかはわからないが、大したものも入ってないし別に構わない。

 ただユキトを置いていくのは不安だな。

 まだ社会に完全に適応したかどうかはわからないのだ。

 いつユキトの中の野生が飛び出してしまうか不安だ。


「お、お願いします!」


 ゆるふわ女は涙目で必死に頼んでくる。

 仕方がないな。


「ユキト、わかってるよね」


「…………!」


 当然だ、とばかりにドヤ顔で頷くユキト。

 あの、フリとかじゃないから。

 押すなよ、絶対押すなよ。

 私は心に一抹の不安を抱えながらもユキトと別れて女の後ろについていった。

 なぜだか衛兵2人組もついてくる。

 お前らはどっか行け。


「こ、こっちです」


 なんだかどんどん奥まった場所に連れていかれている気がする。

 女はおどおどした態度でこちらの様子を時折伺ってくる。

 衛兵の男2人組はなぜかニヤニヤしている。

 こいつらどこまでついてくるんだ。

 見学するつもりならもう一度テーブルの角を子育て仕様にしないといけない。


「こ、こちらへ」


 女は奥まった部屋の前で立ち止まり、私に先に入るように促す。

 逆らっても仕方がないので先に部屋に入ると、そこは鉄格子の小部屋が立ち並ぶ牢屋だった。

 これはどういうことか聞こうとすると、背中を強い力で押されてつんのめる。


「ご、ごめんなさい!」


 女の柔らかい手でぐいぐい押されて1つの房に押し込まれると、ガチャリと鍵をかけられた。

 私は素早く振り向いて鉄格子から離れようとする女のおっぱいを掴んだ。

 爪を立てないように気を付けて優しく揉むと、猫背で形を悟らせなかったおっぱいが浮き彫りになってとんでもなくエロい。

 指が沈み込むような柔らかさだ。

 なんだこれ、ずっと揉んでいたいな。


「んっ、ご、ごめんなさいっ、離してくださいぃ」


「これはどういうことなんだ」


「ごめんなさいごめんなさい!」


「こらっ、その手を離せ!」


「くそ羨ましいんだよ獣人がっ」


 衛兵2人が蹴りを入れてきたのでそれを避けると、私の手は女のでかいおっぱいから離れてしまった。

 手に残ったおっぱいの温もりが名残惜しいな。

 私はさっきの感触を忘れないように脳みそに刻みつけながら、女と衛兵2人に問いかける。


「身体検査するんじゃなかったのか」


「上からの命令で、貴様を拘束することになった。貴様こそ何をやったんだ」


「上?」


「上は上だ」


 心当たりはあの商人しかいない。

 私は街の衛兵の組織図なんか知らないので衛兵の上に誰がいるのかは知らないが、どうやらあの商人はその上とやらにも顔が利くくらいの権力を持っていたらしい。

 カエデとポニテ女のことを、さる方から預かったとか言ってたもんな。

 さる方とやらは衛兵の上か、更にその上なのかもしれないな。


「貴様の処遇は追って沙汰が下される。それまで牢で大人しくしているんだな」


 そう言い捨てて衛兵と女は去っていった。

 女は最後まで申し訳なさそうにぺこぺこしていた。

 あの子はなんか巻き込まれただけみたいな感じで可哀そうだな。

 おっぱいも揉ませてもらったし、あの子には感謝しかないのでそんなに気にしないで欲しい。

 さて、大人しくしておくように言われたがあいつらの言うことなんて聞く義理はない。

 最近練習しているウルトラ強い必殺技でこんな牢獄ぶっ壊してやる。

 私は座禅を組んで気を練り込んでいく。

 まだ素早くは使えないが、集中していれば成功率は7割を超える。

 右手に全ての霊力を集中する溜め技だ。

 必殺技といえば溜め技だろう。

 なんとか波とか撃ちたい。

 だが霊力は物理的干渉力を持たないので溜めて放っても別に何かを破壊する光線のようなものが出たりはしないんだよな。

 だが腕力を強化する力はあるので、パンチなのだ。

 たぶん生身だと私の拳の方がミンチになるような威力があると思うので拳の表面を魔力で覆って強化する。

 準備は整った。

 ここまで1分くらいかかってしまった。

 やはりまだこの技を戦闘中に使うのは無理があるな。

 私は立ち上がり、背後の石壁に向かって拳を振りかぶった。


「お嬢さん、それはちょっと待ってくれないかな」


「?」


 ふいに、隣の房から聞こえた声に拳を止める。

 声の方を見ると、そこには見事なバーコードハゲのおっさんがしょんぼりと体育座りをしていた。

 

 

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