91.おっさん

まえがき

 またしてもギフトをいただきまして、本当にありがとうございます。

 それと更新につきましては他にも書きたい小説がありまして、毎日更新は難しくなります。ご了承ください。


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 声をかけられるまでそこに人がいることに気が付かなかった。

 それほどまでにおっさんの気配は自然なものだったのだ。

 まるで植物のようだ。

 だけど気付いてしまえば無視することはできないほどに、大きな生命力がその肉体からは放たれていた。

 人間が持つ生命力は、気や霊力と言われるエネルギーと基本的には同じものだが、その名のとおり生命を維持するためのものだから肉体の外にはほとんど漏れ出ないものだ。

 だがこのおっさんからは膨大な生命力が駄々洩れになっている。

 いったい何者なんだこのおっさんは。

 見た目はめちゃくちゃ冴えないバーコードハゲにビール腹のおっさんなのに、強キャラ感がにじみ出ている。


「お嬢さん、突然話しかけてすみません。ですが、それをやってしまえばあなたはこの国で生きていくのが難しくなってしまいます」


「まあそのときは逃げればいいかなって」


「ははは、若さですね。失礼、私はフトシ・ヤスダと申します」


 おっさんが自己紹介してきたので私も礼儀として自分の名前を教える。

 しかしフトシ・ヤスダか、また極東島国出身者か?

 おっさんはハゲてバーコードになってはいるがよく見れば髪は黒いし瞳も黒い。

 顔はパンパンだが造形は平面的で、おそらくあの島国の出身者に間違いないだろう。

 カエデとポニテ女の2人は権力者に保護されているみたいな感じだったのに、なんでこのおっさんはこんなところに入れられているんだろうか。

 やっぱりおっさんだからか?

 どこの世界でもおっさんに厳しいのは一緒か。

 世の中は多くのおっさんたちが動かしていると言っても過言ではないというのにな。

 まあおっさんはおっさんを欲していないからしょうがないか。

 おっさんが欲しているのは若い女だ。

 そう考えるとおっさんが動かしている世の中が若い女に優しいのは仕方がないことなのだ。

 この世界のおっさんたちは獣人の女にももう少し優しくしよう。

 それにしても、このおっさんはこんなところで燻ぶっているような感じには見えないんだけどな。


「あんたはなんでここから出ないの?その力ならこんな鉄格子は意味を成さないはず」


 そこまで生命力を垂れ流しにしておいて、ひ弱だとは思えない。

 私が小周天の力によって人外の力を得たように、このおっさんはおそらく人間を超えた身体能力を持っているはずなのだ。

 それこそこんな鉄の棒を組み合わせただけの鉄格子などは指先で曲げてしまえるほどに。


「今私の仲間の子たちが私をここから出すために奔走してくれておりまして、あの子たちの想いと行動を無駄にしてしまうようなことはできません」


「そっか」


「ええ。よろしければ、アリアさんもそのとき一緒にここから出ませんか。あの子たちならきっと、社会的に正しいと言える方法でここから出してくれるはずですよ」


 私としても犯罪者にならずにこの状況を打開することができるならそれに越したことはない。

 おっさんの仲間に頼んでここから一緒に出してもらうことにしよう。

 私は拳に集めていた気を霧散させて必殺技を中断した。

 この必殺技のお試しはまた今度だな。

 どのくらいの威力があるのかまだ自分でもわからない。


「はぁ、凄いエネルギーですね。失礼ながら肝が冷えました」


「ごめん。隣の房に人がいるとは思わなかった」


「いえ、影が薄いとよく言われますから。ははは」


 それから私はおっさんと色々なことを話した。

 おっさんは腰が低くて聞き上手でコミュ障の私でも話しやすい相手だ。

 つい色々なことをしゃべってしまう。

 孤児なこと、森の中で暮らしていたこと、久しぶりに街に来たこと。

 さすがにガチャや狐の力のことは秘密だが、それ以外の当たり障りのないことを色々としゃべった。

 おっさんも自分のことをけっこうしゃべった。

 故郷では学校という子供の教育施設で働いていたこと。

 教師ではなく用務員という雑用をする係だったこと。

 急な事故のようなもので故郷から引き離されて、帰ることはおそらく不可能なことなど。

 うーん、前から薄々そうなのではないかと思っていたけど、これって異世界転移というやつだよな。

 それもクラス転移とか集団転移とかって呼ばれるやつだ。

 おっさんはおそらく私に話してもなんのことかわからないだろうと思って話しているのだろうが、前世の記憶を持つ私にはなんのことかばっちりわかってしまう。

 やっぱりおっさんは追放とか投獄とかされてしまう運命なんだな。

 

「失礼、少々お花を摘んでもよろしいでしょうか」


「もちろん」


 この牢にはトイレは付いてない。

 代わりに隅っこに壺のようなものが置かれている。

 おそらくあれにしろということなのだろう。

 嫌だけど仕方ないな。

 孤児院も似たようなものだったし、できなくはない。

 おっさんは壺の前まで行くとズボンを下して一物を解き放つ。


「なっ」


 私の口から思わず驚きの声が漏れ出る。

 あまりにも、おっさんの息子がでかかったのだ。

 鬼人族のゲイルのものと似たような大きさだ。

 ゴリマッチョの巨漢のゲイルとしょぼくれたおっさんの股間のサイズが同じなのは明らかにおかしい。


「あの、あまり見ないでもらえると……」


「あ、ごめん」

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