84.男の娘

 劣勢の状態のままオークと一人で戦わされている人間と、それを見ている何人かの人間。

 なんだかいじめみたいで気分が悪いが、他人の人間関係に口を出せるほど私はコミュニケーション能力が高くないんだ。

 かといって知らん顔でお先にっていうのもマナー的には良くないと思う。

 仕方なく私は街道の脇の石に腰掛けてことの次第を見守った。

 ユキトも私を真似てちょこんと石に腰掛けている。

 可愛い。

 賢くて偉いな。

 順調に人間社会に適応できているようだ。

 私はユキトの頭を撫でながらオークとの戦いを注視する。

 オークと戦っているのはよく見ると女だ。

 ポニテ女と同じ黒髪だが、ショートカットでスレンダーな体形をしている。

 華奢と言ってもいいくらいだ。

 おっさんみたいな感想を言えば、なんだか守ってあげたくなるようなタイプだった。

 でもちょっと待てよ、さっきポニテ女は男なら根性を見せろとか言ってなかっただろうか。

 まさか男の娘だというのか。

 男の娘か、ありかなしか際どいな。

 ひろしは男の娘はいけないタイプのロリコンだった。

 なぜならロリコンで付いてるのもいけるとなると、それはもうショタコンになってしまうからだ。

 では私はどうかと聞かれれば、付いてるのはいける。

 だが男の娘がいけるかどうかはまた別の話だろう。

 なぜなら二次元の男の娘と違って現実世界では女にしか見えない男というのは女になりたい男、つまりニューハーフの人や女装趣味の人がほとんどだからだ。

 どれだけ心が女で、女になりたいと強く願っていたとしても男というのは成長期を迎えると肉体的に男らしくなってしまうものだ。

 それにそういった女の心を持った男というのは恋愛対象は大体男だ。

 女の私などは相手にされないだろう。

 だがもし、普通に女が好きで女になりたいわけでもないのに声も見た目も女にしか見えず、股の間に主砲を隠し持っている正真正銘の男の娘が現実にいたとしたら私はありだと思うのだ。

 二次元にだけ存在すると思っていた本物の男の娘か、いじめられているなら可哀そうだな。

 ポニテ女はなよなよした男とか嫌いそうだもんな。

 周りの男たちもポニテ女の言う事聞いてないでさっさと助けてあげたらいいのに。

 何か明確な身分の差でもあるんだろうか。

 様付けで呼んでたもんな。

 確かヤヨイ様とカエデ様だったか。

 和風ネームだな。

 顔の造詣もどこか平面的で和風な気がする。

 まさか異世界転移してきたひろしの国の人じゃないよな。

 ひろしの国のファンタジー作品でも大体東の果ての島国とかにひろしの国と似たような和風国家があることが多いから、そっちだろうか。


「や、ヤヨイ様、さすがにカエデ様がやべえ!もう加勢に行きますぜ!!」


「ちっ、仕方ないか。お前たちはいい。私が出る」


「ちょっ、待っ……」


 ようやく男の娘は助けられるらしい。

 ポニテ女は男たちの制止も聞かず、剣を抜いて飛び出していった。

 人の話を聞かない女だな。

 でかぱいはつい見てしまうが、さすがにちょっと関わり合いになりたくない女だ。

 ポニテ女は結構な速さで走り寄り、2匹のオークをあっという間に一刀両断にしてしまった。

 なかなかの腕だな。

 それに単純に身体能力が高い。

 なんらかのスキルだろうか。

 魔力による身体強化の可能性もあるが、あれは脳のリミッターを外して限界を超えた動きをするだけなので身体に負担がかかる。

 あの程度の魔物を倒すのに使う奴はいないだろう。

 普段から身体強化を使って肉体を追い込んで鍛えているゲイルのような変態もいるけれど、その場合は身体が人間離れした筋肉の鎧に覆われていないとおかしい。

 ポニテ女は確かに均整のとれた肉体をしているとは思うけれど、そこそこ鍛えられている程度の肉体ではあの動きはできないだろう。

 周囲の気に変化はないので霊力を源とする力ではなく、魔力を源とするスキルの力と考えるのが妥当だろう。

 身体能力を強化する系統のスキルか、強そうだな。

 

「まったく、情けないな西岡。それでも男か貴様は。この程度の敵に手も足も出ないとは弱すぎる」


「ご、ごめん、北条さん」


 男の娘は申し訳なさそうな声でポニテ女に謝る。

 声も完全に女としか思えない声だ。

 ちょっとハスキーな感じはするものの、男のように低い声ではない。

 女声優さんがアフレコする中性的な少年声みたいな感じだ。

 オークとの戦いはよほど怖かったのか、涙目になっていて可愛いな。

 あちこち怪我を負っているのが痛々しいが、そっちは男たちがガラス瓶に入ったポーションのような薬品を持っているのですぐに治療されることだろう。

 なかなかに興味深い人たちだったのでこのままもう少し見ていたいところだが、さすがにオークが倒されたのにここに座ってじっくり見ていたら不審者だ。

 私は槍を杖替わりに立ち上がって歩き出す。

 オークの解体を始めた男たちに軽く会釈してお先に失礼する。

 あの商人の集団は今日はオーク肉か、いいな。

 私も今日はオーク肉にすることにしよう。

 それにしても西岡君に、北条さんか。

 東の果てにある和風列島国家の貴族だけが持つ苗字とかだったらいいんだけどな。


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