83.黒髪ポニテおっぱい

 農村が立ち並ぶいかにも辺境というような土地を超え、幅5、6メートルくらいの小川に突き当たった。

 素人が手作りした感じの橋がかかっている。

 ちょっとギシギシ音が鳴って怖い橋を渡ると、少しだけ道幅の広い街道と合流した。

 馬車が2台くらい通れるくらいの広さだろうか。

 右か左どっちに行くか迷う。

 看板は立っているが読めない。

 日本語で書いてくれたらいいのにな。

 この世界の文字も機会があったら学びたい。

 人間社会で生きていくなら必須の能力だろう。

 仕方がないので槍が倒れた方に進むことにした。

 少し陰陽術をかじっている私からしたら、こういう原始的な占いも案外馬鹿にできないと思うのだ。

 ひろしの国では大昔、国の趨勢まで占いで決めていたんだからな。

 我が愛槍よ、私の運命を決めてくれ。

 槍は今歩いてきた道の方に倒れた。

 やっぱり占いなんて迷信だな。

 もう一回槍を倒すと今度こそ片方の道を差したのでそちらに向かう。

 馬車のわだちの深さからいって、おそらくどちらに行っても街はあるだろう。

 早いか遅いかの違いでしかない。

 そんなに急ぐ旅でもないし、むしろ遠回りの方が楽しいな。

 街道をのんびり歩いていくと、何台もの馬車が追い越していく。

 けっこう馬車の往来が多いな。

 この先にある街の規模にも期待できる。

 しばらく歩くと街道の両脇に森が現れた。

 森といっても私が一カ月以上過ごした手つかずの原生林といった感じの森とはおもむきが違う。

 ある程度人の手が入っていて、里山といった印象を受ける森だ。

 あんなに危険な魔物がうろついていたらこんな近くに街道を作れないだろうから、ある程度は魔物が駆除された森なのだろう。

 しかし、危険が無いわけでも無さそうだ。

 おもむろに槍を振ると、カキンッと硬質の物を弾いた感覚があった。

 カランカランと地面に転がるのは、金属の鏃が付いた1本の矢だった。

 矢羽根はボロボロで、何度も再利用されているような粗末な矢だ。

 飛んできた方を見ると、ガサガサと茂みが揺れて人が去っていく足音がした。

 どうやら魔物が駆除された安全な森というのは、野盗の類の絶好の隠れ家になってしまっているらしい。

 とりあえず弓矢を射かけてみて、怪我でも負わせることができれば集団で襲い掛かるという算段だったのだろうか。

 なかなかにずる賢い奴らだ。

 ピクピクと耳を動かしてユキトがこちらを見てくる。

 倒してしまっても構わんのだろう?とでも言いたげだ。

 

「あれは倒してよし」


 次の瞬間ユキトは白い閃光となっていた。

 木と木の間を飛び跳ねて森の中を高速移動していく。

 少しすると盗賊たちの悲鳴が聞こえてきた。

 特に強い敵とかがいるということも無かったみたいだ。

 フラグじゃなかった。

 しかし盗賊を倒すのはいいけど、この後の剥ぎ取りが辛いんだよな。

 盗賊はほとんどお金なんか持ってないし、装備も汚れていることが多くて触りたくない。

 前に倒した正規兵の装備は安っぽくて粗末だと思っていたのだけど、もしかしたら結構いい装備だったのではないかと思えてくる。

 アンデッド対策に燃やさないといけないし、面倒なことは多いのだ。

 だが矢を射かけるような明確な敵対行為をされると殺さないわけにはいかない。

 ゴリマッチョな獣人の姿だったら手を出してこない可能性も高いけど、そんな姿に変身するのはなんか嫌だしな。

 物語の中みたいに盗賊がアジトにお宝をたくさん貯えていたらいいのだが、そんなに羽振りがよかったら盗賊なんてやってないと思うんだ。

 金貨の山をアジトに貯め込んでいる有能な盗賊がどこかにいないだろうか。







 ちょいちょい襲ってくる盗賊を討伐しながら街道をのんびり進むと、数台の馬車が街道に停車しているのが見えてきた。

 また盗賊だろうかと思ったが、どうやら今回は違うようだ。

 馬車の先では2匹のオークと一人の人間が戦っていた。

 オークの装備は腰布に棍棒だ。

 どこかしらの集落に属するオークではないことは確実だろう。

 はぐれオークは基本腰布と棍棒なのでそんなに強くない。

 馬車を何台も持っているくらいの商人の護衛なら余裕だろう。

 しかしどうにも様子がおかしい。

 馬車の周りには武器を持っている人間が数人いるにもかかわらず、オークとの戦闘は一人に任せている。

 一人で十分だと判断したのなら納得だが、オークと戦っている一人はなんだか劣勢な気がする。

 どういう状況なんだろうか。


「逃げるんじゃない軟弱者が!男なら根性を見せろ!!」


「ヤヨイ様、やっぱりカエデ様一人じゃあ無理だ。俺たちも加勢に……」


「ダメだ。あの程度の魔物を一人で倒せないでどうする」


 六人ほどの武器を持った男たちが一人の女に従っているように見える。

 黒髪ポニーテールのキリっとした美人だ。

 おっぱいもでかい。

 ポニテおっぱい女がオークと戦っている一人にげきを飛ばしている感じだが、男たちはさっさと加勢に入りたいと思っているのか。

 ポニテおっぱい女と男たちとの関係性がよくわからないな。

 男たちは装備を見るに結構強そうだ。

 それに比べてポニテおっぱい女は鎧も剣も新品っぽくて使い込まれた様子がない。

 立場が違うのは身分的なものだろうか。

 それにしても、黒髪の人なんてこの世界では珍しいな。


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