79.VS岩トカゲ2

 上空から重量物を落しての攻撃には一定の効果があるということがわかった。

 物理法則に反した硬さの魔物であっても、完全に物理法則を無視できるわけではないということなのだろう。

 魔力を纏っていない物理一辺倒の攻撃であろうと、威力が一定値を超えていればダメージは通るのだ。

 物理攻撃で倒せるのであれば、極論超高威力のパンチであれば殴って殺せるということになる。

 生身でそんな殺人パンチが繰り出せるほど私は人間をやめていないが、繰り出せそうな方法論は前々から考えてある。

 私が狐から受け継いだ力、変身能力を使うのだ。

 狐の変身能力は幻影などではなく本当に自身の身体を変化させることができる力だ。

 どこから来ているのかはわからないが、身長や体重を弄れば身体の質量は増える。

 自分よりも身体の大きい生物に化けることだって可能なのだ。

 私はこの力を狐から受け継いだとき真っ先に、巨人とかトカゲに化ければ超強いじゃんという馬鹿な考えに至った。

 しかし変化といってもその力は完全にマニュアル操作で、なりたい姿を思い浮かべると自動的に変化してくれるというような親切設計ではない。

 私は狐になってまだ1年も経っていないビギナーなので、変化が下手くそなのだ。

 まだまだ思った通りのフォルムになれるかは運次第だが試すにはいい機会だろう。

 巨人の姿になってまでぶん殴りたいものっていうのは普通に生きてたらそうそう出会うものじゃない。

 私は一旦結界の中に引っ込み、服を脱ぎ捨てた。

 変身して服が破けるなんていうよくある美少女アニメのサービスシーンのようなことはしたくない。

 機能性インナーや下着まで全て脱ぎ、全裸となる。

 誰に見られるわけでもないけど、やっぱり外で裸になるのはちょっと恥ずかしい。

 

『なんだ小娘、いきなり脱ぎよって。大人しく我に食われる気になったか』


 涎を垂らしながら結界に噛みついてくる岩トカゲ。

 地味に魔王城のポイントを減らしにくるのが鬱陶しい。

 さっさとこのトカゲ面をぶん殴ってやろう。

 私は狐の魔力を少し解放して尻尾を5本まで生やす。

 強力な魔力が私の身体から迸り、周囲の空間がユラユラと歪んで見えるかのようだ。

 

『くっ、なんだこの魔力は。だが、この力を食らえば……。小娘ぇ!貴様を絶対に食らうぞ!!』

 

「やってみればいいんじゃないの」


 私は目を閉じて魔力のコントロールに集中する。

 周囲を威圧するように魔力が漏れ出てしまうのは、魔力のコントロールができていないからだ。

 完璧にコントロールされた魔力は身体から漏れ出ることはない。

 魔力を掌握すると同時に空間をユラユラ歪ませていた魔力が無くなり、威圧が収まった。

 

「いくぞ岩トカゲ。変化!!」


 別に口に出す必要はないが、気合を入れるために技名っぽく叫んだ。

 私のほっそりとした幼女の身体が内側からぶくぶくと膨らんでいく。

 巨人化というよりも巨大化のような変化の仕方だ。

 残念ながら巨人に変身するときに雷が落ちてくるようなエフェクトを入れることは不可能だ。

 しかし巨人に変身した人間の戦い方として、かの二次元作品は大変参考になった。

 巨人は石を投げるだけで強いし、なんならただ殴るだけで強い。

 しかし武器があったらもっと強い。

 それは鎧のように硬い表皮であったり、強靭なアゴや爪であったり、脊髄液であったり。

 変化の力でもさすがに脊髄液を再現するのは不可能だが、他は可能だ。

 完全に巨大化が終わった私の身体は、真っ赤な鱗に覆われていた。

 二足歩行で筋骨隆々の巨人のフォルムに、トカゲの頑丈な鱗を生やした表皮、手足からは鋭い爪が生え、顔は完全にトカゲの顔を再現している。

 私が戦った本物の巨人には腕が10本くらい生えていたのだが私はそんなに腕があっても使いこなせる気がしなかったので腕は2本だけにした。

 今日の変化はなかなかに上手くできたみたいだ。

 トカゲと巨人が混ざり合ったようなこの姿は正直気持ち悪いが、この姿が一番強そうだと思ったのだから仕方がない。

 

『な、なんじゃその姿は……』


 岩トカゲはトカゲ巨人と化した私を見て少しビビっているようだ。

 先ほどは見上げていた岩トカゲを今度は私が見下げている。

 なんとなく優越感だ。

 私は拳を握りしめ、岩トカゲの顔面を思い切り殴りつけた。


『ごっっぐぁぁぁっ!!』


 鼻面からビチャビチャと赤い血が飛び散り、岩トカゲが地面をゴロゴロと転がっていく。

 効いている。

 握り拳だけで軽自動車ほどありそうなこの巨体は見掛け倒しではないようだ。

 巨体に見合った筋力が備わっている。

 私は両こぶしを握り締めてボクシングのファイティングポーズのようなものを形作る。

 その拳をコンパクトに押し出してワン、ツーとリズミカルに岩トカゲの顔面をぶん殴っていった。

 

『ゴベッ、ブバッ、グゲェェッ」


 一発ごとに血まみれになっていく拳。

 これは〇〇の分!みたいな感じで感情を入れて殴りたいのだが、私の知り合いは誰もこいつにやられてないんだよな。

 しょうがないから全部自分の分だ。

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