78.VS岩トカゲ

 金棒に纏わせた魔力を尖らせ、トゲ付きにしてぶん殴る。

 尻尾はすでに3本まで出しているため、魔力の密度はかなりのものになっているはずだ。

 しかしやはり攻撃は通らない。

 ユキトもいいサンドバックだとばかりに蹴りまくっているが、痛がるそぶりはあっても深刻なダメージを受けたような感触は無い。

 ただひたすらに硬い。

 動きは鈍重で、攻撃手段は今のところ噛みつきと爪の振り下ろしの2パターンしかない。

 しかしどんな攻撃も通じない硬い鱗を持っている。

 まるで全てのリソースを防御力に全振りしたような魔物だ。

 そんなに痛いのが嫌なのか。

 

『小娘と兎がぁぁ!!殺す殺す殺すぅぅ!!』


 先ほどから一方的にボコスカ殴られて蹴られているからか、岩トカゲの目はバキバキに充血して殺意マックスの顔をしている。

 顔だけは怖い奴だ。

 しかしこのままではいつまで経っても勝負はつかない。

 岩トカゲの怒りが近くにあるという人間の村に向いたらまずいことになるだろう。

 そろそろなんらかの方法を考えなければならない。

 私は岩トカゲの相手を一端ユキトに任せ、結界の中に戻って作戦を考える。

 巨人とトカゲのコンビが襲来したときにも思ったのだが、私には攻撃手段が乏しい。

 特に格上の、高い防御力を持つ魔物に対しての攻撃手段が欠如している。

 あれから何度もガチャを回したけれど、結局対物ライフル以上の攻撃力を持つ兵器は出なかった。

 魔王城のポイントで設置できる防衛兵器についてはそもそも桁が違いすぎて買うことができそうもない。

 結構無駄遣いをしてしまっているのもポイントが貯まらない原因だろう。

 あったら使ってしまうのは私の悪い癖だ。

 無いものは無いんだから今更後悔したところで仕方がない。

 今はなんとかあいつを倒す手段を考えなければならない。

 こんなときなんらかの魔法的な攻撃手段があったらいいのだが、残念ながら魔法というのはスキルを授かった選ばれた人間にしか使うことができない。

 錬金術の技術で魔導兵器のようなものを作れるかもしれないけれど、今の私には家電レベルの魔道具が限界だ。

 結局私にできるのは物理攻撃しかない。

 しかしいくら筋肉を振り絞ったところであいつには効かない。

 もっと大きな力じゃないとダメなのだ。

 たとえば落下エネルギー。

 高いところから物を落してみたらどうだろうか。

 私はホウキに跨って空へと舞い上がった。

 幸いにも岩トカゲには空を飛ぶ能力が無い。

 空からなら一方的に攻撃することが可能だ。

 上空1000メートルほどまで上がると、岩トカゲが子犬のように小さく見える。

 これ以上高く上がると標的が見えなくなってしまうだろう。

 ユキトは私がやろうとしていることを察したのか結界の中に避難したようだ。

 私が持っている物の中で一番頑丈で重たいものといえばゲイルから貰った金棒だろう。

 私は岩トカゲ目掛けてマジックバッグから取り出した金棒を落した。

 重心を下にして一直線に落ち始めた金棒は、物凄い勢いで加速していく。

 1キロ上空から物を落せばペットボトルに入った500ミリリットルの水だって爆弾のようなものだ。

 それが工事現場の鉄骨みたいな重さの金棒だったらもはや戦艦の主砲だろう。

 まあ当たればの話だが。

 金棒は少し風の影響を受けて右に流れ、岩トカゲの左肩をかすめて地面に突き刺さった。


『ぐぁぁぁぁぁっ!!いてぇぇぇぇっ!!』


 金棒に肩を抉られた岩トカゲは血を噴出しながら地面をゴロゴロと転がる。

 さすがに効いたようだが、致命傷ではなさそうだ。

 やはりこの隕石爆弾みたいな攻撃手段は狙いが難しいな。

 数を撃ちたいところだが、残念ながらいい弾になりそうなものがもう無い。

 適当な岩でも回収しておくんだったな。

 鉄なら兵士たちから剥ぎ取った質の悪い武器もあるし、ゴブリンの血液から抽出することもできる。

 今度専用の弾を大量に作っておこう。

 しかし今はどうすることもできない。

 金棒を回収して再利用するとしよう。

 

『小娘ぇぇ!!何をした貴様ぁぁ!!』


 金棒を回収しに地上に降りたら岩トカゲが涎をダラダラ垂らしながら牙を剥きだしにして襲ってきた。

 汚い。

 私は噛みつき攻撃を避けて岩トカゲの口の中に拳銃の弾をぶち込むが、このレベルの魔物は口の中も硬いらしい。

 50口径を誇るひろしの世界最強の拳銃でさえ岩トカゲには口に羽虫が入った程度の煩わしさにしかならないらしい。

 体内なら柔らかいんじゃないのか作戦も失敗か。

 私は素早く金棒を回収すると、再びホウキに跨って空に上がった。

 岩トカゲは空を見上げて私の方を見た。

 さっきの攻撃がなんなのか気付いたのか、狙いを定めさせないようにゴロゴロよ左右に転がって小まめに動き始めた。

 そんなに速い動きではないが、狙いは定まらない。

 しゃべるだけあって無駄に知恵が回る魔物だ。

 あの巨体がいつまでも動き続けていられるとは思えないので長期戦に持ち込んであいつが疲れて動きを止めたところに金棒を落してもいいのだが、他にやってみたいこともあるので隕石爆撃作戦は一時中断しよう。

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