80.ドラゴンの滅ぼし方

 トカゲの巨人に変身して岩トカゲを殴り続ける。

 しかし殴っても殴っても岩トカゲが死ぬ気配はなかった。

 攻撃が効いていないわけではない。

 血も出ているし、骨も砕けている感触はある。

 普通の生き物だったらすでに死んでいるくらいの肉体の損傷だ。

 だが死なない。

 こんなにしぶとい生き物は他に見たことがないな。

 

『ぐぅっ、どのようなスキルを使ったのかは知らぬが人間の小娘が無駄なことを……。地竜である我を貴様ごときが滅ぼせるわけがなかろうが』


 地竜、こいつドラゴンの一種だったのか。

 翼もないし角も生えていないからトカゲの亜種だと思っていた。

 ドラゴンブレスも吐かないし。

 ドラゴンのことはひろしの世界の二次元作品でしか知らないけど、確かに多くの物語でペラペラとしゃべっていたような気がする。

 そして殺すためには特殊な武器が必要になるパターンも多い。

 この世界のドラゴンもそのパターンなのかもしれない。

 こいつを殺すためには物理一辺倒では無理ということか。

 私は振り下ろそうと思っていた拳を下げる。


『ふんっ、わかったならさっさと我に食われろ』


 先ほどまでグロッキーな状態だった岩ドラゴンはすでにある程度回復したのか強気だ。

 圧し折れた牙の欠片を大量の血と一緒にペッと吐き出して悪態をついている。

 凄まじい回復能力だ。

 まるで私の小周天のようだ、と考えたところで気が付いた。

 岩ドラゴンの周りに気が集まっている。

 まるでじゃなくこれは小周天そのものなのではないだろうか。

 まさかドラゴンは全員が気功術を使えるのか。

 だとすればただの魔物と能力的に隔絶しているのは納得できる。

 そして普通に倒そうとしても難しいということもだ。

 気功術を修めた生き物はゾンビみたいなものだからな。

 そんな奴を殺すためにはどうすればいいんだろうな。

 村田流の気功術にも、気功術を使う相手を殺す方法なんて書いてなかった。

 気や霊力と呼ばれるこの力を扱う知識は村田流の虎の巻以外にもある。

 狐が私の頭に勝手にダウンロードしたひろしの国の大昔の陰陽師のあれやこれやだ。

 狐も陰陽術を本格的に学んでいたわけではないからそこまで詳しい知識ではない。

 あいつはどちらかといえば陰陽師に討伐される側の存在だったので仕方がないだろう。

 狐は仙術という仙人みたいな術を使うことができたようだが、それは私が学んでいる気功術と大して変わらない。

 気を集めて身体の中で循環させてパワーでごり押しという脳筋スタイルだ。

 単純だが狐やドラゴンのように強大な魔力をその身に宿した存在はそれだけで強いだろう。

 そんな世の理から外れた化け物をちっぽけな人の身でありながら滅殺する方法を考えて生み出されたのが陰陽術のような術なわけだ。

 ほとんどの術師は狐の強大な力の前にビビッて逃げ出したようだが、ごく稀に立ち向かってくる勇敢な奴がいた。

 狐と恋仲になって裏切ってあの岩に封印した奴もその一人だ。

 あいつは男としては最低のクズ野郎だったが陰陽師としては優秀だった。

 化け物みたいな力を持つ強大な妖だった狐と対等に戦うことができるくらいには力のある術師だったみたいだ。

 あのクズ野郎にできて私にできないということはないはずだ。

 私は巨人に変身してから忘れていた小周天を始める。

 

『なんだ?力が……まさか、貴様も龍脈から力を!』


 やはり岩ドラゴンの力の源は周囲の気か。

 龍脈というのは地面の下を流れている大きな気の流れのことだろう。

 力の流れが私にも入り込み始めたことに気付いたか。

 これで状況はイーブンだ。

 ここから先は練習したことの無いぶっつけ本番となる。

 私は狐の記憶の中にあるあの男の一番得意だった術を思い出す。

 手からかっこよく炎を出す術だ。

 あの男が手印を結んで真言を唱えると、白い炎が手のひらに灯るのだ。

 私は狐の記憶から印を正確に真似し、真言を唱える。


『のうまくさらばたたぎゃていびゃく~~~うんたらた、かんまん!』


 3つある不動明王の真言の一番長い奴だ。

 ぜってぇ焼きたい奴がいるので不動明王様の炎でやっちゃってくださいみたいな意味があるらしい。

 ひろしの国の神仏である不動明王様が異世界にまで力を貸してくれるかはわからなかったが、なんとか私の願いは通じたみたいで赤い鱗に覆われた右手に白い炎が灯る。

 不動明王様はなかなか手広くやっているらしい。

 もしくはこの術が実は不動明王様とは全く関係ないとかだ。

 天災や疫病だって昔は神様や悪霊の仕業だと思われていたのだから、陰陽術だって神様から力を借りていると思っていたけど実は関係なかったってこともありえるだろう。

 とにかく炎が出たならどちらでもいいことか。

 手のひらに灯る白い炎は幻想的で綺麗だが、その見た目に反してかなりえぐい性能の炎だということは知っている。

 あの男はこの炎を自由自在に操ることで狐と互角に戦っていたが、私はそこまで上手く操れそうにない。

 仕方がないのでこのまま押し付けるか。 


『き、貴様、なんだその炎は……や、やめっ、あぎゃぁぁぁぁぁぁっ』

 

 魂まで焼かれた奴ってのはこんな断末魔をあげるんだな。

 あの世で閻魔に噛みつくなよ。

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