66.じゃがいも交易と軍の襲来

まえがき

 遅くなりましたが、ギフトをくれた方ありがとうございました。


----------------------------------------------------------------------------


 納得いく出来ではなかったものの、なんとかじゃがいもの植え付けから収穫までの自動化の目途が立ち、今日ついに全てのじゃがいもの収穫が終わった。

 芋を満載にした木箱が積み上がる光景はなかなかに壮観だ。

 これが全て魔石に変わったら何に使おうかと思わず取らぬ狸の皮算用をしてしまう。

 そんなことを考えていると肩に乗っていたユキトが飛び降りて森の方を見る。

 どうやら第一村人が来たようだ。

 村人たちにはこの時期にじゃがいもが収穫できるのでまた魔石を持ってくるように言ってある。

 この近辺の村々を治める領主の課す税金は高いらしいので村人たちも生活が苦しいのだろう。

 冬の間に貯めたであろうクズ魔石を荷車に山積みにしていた。

 冬の農村というのは基本的に家の中でできる手工芸品などを作って春になると街に売りに行くような生活をしていると聞く。

 もしかしたら今年はそれをせずに無理をして冬の森に入ってゴブリンを狩り続けていたのかもしれない。

 じゃがいも足りるかな。

 まあ足りなかったら早いもの勝ちだな。

 

「お久しぶりでございます、魔女様。魔石を集めてまいりました、どうか交換をお願いいたします」


「「「お願いします!!」」」


 村人たちの顔色は以前よりは幾分か良い。

 じゃがいものおかげで少しは食べられるようになったようだが、依然として領主のかける税が軽くなったわけではない。

 今後も食料については色々と考える必要はあるだろうな。

 ひろしの国で昔使われた手法としては隠し田とかが有効か。

 麦を隠して育てる場所というのを作るのは難しいだろうが、じゃがいもならばちょっとした土地でも十分に収穫を見込むことが可能だ。

 じゃがいもの育て方についても隠す必要もないので聞かれたら答えている。

 これからこの近辺では領主に隠れてじゃがいもを栽培するのが流行るだろうな。

 ご飯を食べられないってのは本当につらいからな。

 じゃがいもの力でそういう人が少しでも減ってくれればいいと思う。

 食料不足が完全に解決されることが不可能なのはひろしの世界の歴史でわかっている。

 人間というのは食料があったらあったで考え無しに増えていってしまう生き物だ。

 ひろしの世界ではアンモニアを人工的に合成できるようになって農作物を大量に生み出せるようになったが、それでも食料不足が解決することは無かった。

 食料生産技術の進歩よりも早い速度で人口は増えていくし、人間同士、国同士にも格差という社会問題がある。

 かくいう私だってガチャという力を持っているから困っている人全員で私の持っているものを平等に分け合おうと言われたところで嫌だと答えるだろう。

 かといってこれ以上人口を増やさないためにお前らセッ〇スするなとは言えないしな。

 ひろしの国を含めたあの世界の先進国では少子化という現象が起きていたみたいだし、教育水準がある一定を超えると自然と起こる現象なのかもしれないな。

 ならば全世界でその教育を行えばいいのではと思ったが、そんなことはひろしの世界でもまだ達成できていないことで、どうすれば可能なのかもわからない。

 仮に達成できたとしても、格差がなくなるわけではないだろう。

 人の能力にも差があるし、欲望にも差がある。

 小さな幸せでも満足できる人がいれば、酒池肉林を築いても満足できない人もいる。

 自分の望みを実現できる能力のある人と、ない人がいる。

 格差というものはおそらく人間が女の胎から生まれている限りは変わることのないことだ。

 解決するにはそれこそ安いSFみたいに、試験管の中で能力差の出ないように子供を製造するということが必要になるだろう。

 1回くらい宇宙人の侵略でも受けないと世の中がそんなことにはならないだろうな。





 村人たちとじゃがいも交易を行いながら社会問題について考えて悦に浸っていると、なんだか騒がしい集団が森を抜けて魔王城に向かって歩いてきた。

 そろいの鎧に雑兵が持つような短槍、腰には剣を携えた集団だ。

 見たところ正規兵のようだ。

 国軍だか領主軍だかはわからないけれど軍人なんかがこんなところまでやってきて、いい予感はしないな。


「道を開けよ!!さもなくば切って捨てるぞ!!」


 兵士たちが大声でそんなことを言うものだから、村人たちは顔色を悪くして道を譲った。

 ずいぶんとガラの悪い兵士たちだ。

 ひろしの国の時代劇に出てくる悪いお侍様かよ。

 時代劇だったらその後良いお侍様が出てくるんだよな。

 残念ながらそんな奴はここにはいそうにないが。

 兵士たちはまっすぐ私のもとへと歩いてくる。

 なんか用かよ。

 私は魔王城の結界の中にいるので強気だ。

 じろりと連中を睨みつけると、小娘に舐めた態度をとられてイラついたのか青筋を浮かべて怒気をあらわにする。

 今にも槍で突かれそうで、ちょっと怖い。

 最近は私も結構強くなったと思うけど、人間相手の実戦経験はゼロだ。

 私は平常心を保つために深呼吸をして周囲の気を取り込み、小周天を安定させる。

 心の乱れは霊力の乱れだ。

 整った私の心はすぐに大声で乱される。

 

「小娘!お前が魔女を自称しているという女か!」


「そんな大声出さなくても聞こえてるよ。魔女とか自分で名乗ったつもりはない」


「貴様が魔女かと聞いている!!!」


 うるせえ。

 しかも話が通じない。

 怖い顔をしてでかい声で私に魔女かどうか尋ねてくる男は、一人だけちょっとだけ鎧が豪華だ。

 こいつが指揮官なんだろうか。

 こんなんで軍事作戦とかできるのか。


「マークス、もうよい。私が直々に尋問しよう」


「はっ」


 指揮官ぽい男が下がると、その後ろから更に豪華な鎧を着た男が出てきた。

 実用性が無さそうな金ぴかの金属鎧だ。

 まさかオリハルコンだろうか。

 正直そんな強そうなやつはいない軍隊だと思っていたけれど、オリハルコン製の装備となれば話は違う。

 私の額から冷や汗が一筋流れ落ちた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る