65.農機2

 ゴーレムに使われている人工筋肉の技術を使ってトラクターのロータリーアームの上げ下げを運転席に座ったままできるように改良した私は次に、ジャガイモの植え付けを楽にしてくれる農業機械の設計に移った。

 正直これに関して前世の記憶はあてにならない。

 ひろしの実家は北海道の米農家で、ジャガイモを専門につくる農家ではなかったからだ。

 ひろし家のジャガイモは家族が食べる分だけをひろしが栽培していた。

 家庭で食べる分を植え付けるのに機械は使わない。

 それでも北海道の農家の息子のくせにジャガイモの植え付けの機械に関する知識がゼロというのはなんでだよという気持ちでいっぱいになる。

 脳みそに無駄知識とロリ画像を詰め込んでないでジャガイモ植え付け機を勉強しておけ。

 仕方がないのでひろしの両親が使っていた田植え機を参考にして機械を作ろうと思う。

 さすがに田植え機についてはひろしの記憶にも残っている。

 かなり複雑な構造だからわからない部分も多いが、アームが上下して水田に苗を植え付けていた気がする。

 ひろしの世界では回転運動を上下運動に変える機構を使っていたのだろうが、私はゴーレムの技術があるからこれは簡単だな。

 上下運動は腰振り人形に必須の技術だし。

 車輪を回して前に進む機構と種芋を掴んで土に埋める機構の2つでいけそうだ。

 難しいのは進むスピードと植える感覚の調整か。

 こいつはそれほどスピードが出ない仕組みにしておくか。

 どうせジャガイモの植え付けにしか使わない機械だし、それに特化してしまえば仕組みが簡単で済む。

 一定スピードで進みながら一定スピードで種芋を掴んだアームが土に芋を植えるという機械でいいか。

 これならトラクターよりも簡単かもしれないな。

 私は素材を集めて錬成を始めた。



 



「おー、楽々ちん〇ん」


 歩く速度よりも遅い農業機械をまっすぐ畝に沿って走らせていくだけで、畝の中心部には一定間隔で種芋が植え付けられていく。

 これは楽ちんだ。

 農業改革だ。

 種芋を切る作業が一番大変だったくらいだ。

 農業の規模が大きくなって作業が楽になるというのも変な話だ。

 機械を使うことでキャパシティが増えて余裕ができたってことなのかな。

 このまま職業農家っていうのもいいかもな。

 ジャガイモ美味しいし、交易で魔石ももらえてウマウマだし。

 もう街とかどうでもよくなってきた。






 青々とジャガイモの葉っぱが茂る季節になると、収穫まではあと少しだ。

 ジャガイモの生育には芽かきという作業が欠かせない。

 生命力の強いジャガイモの種芋からは放っておくと何本もの芽が出てくるが、そのすべてを育てると芋の個数が増える代わりに一つ一つの芋が小さくなってしまうという問題が生まれる。

 土の中の栄養には限りがあるためにすべての芽を育てることはできないのだ。

 だが北海道の芋農家がすべての株で芽かきをしているかというと、してないだろう。

 プロは浴光育芽という技法を使って最初から弱い芽を駆逐して強い芽だけが生えるようにするのだ。

 ひろし家のジャガイモの専門家を自称していたひろしはその技法を賢しらにも使っていた。

 私もそれを真似てやっていたのだが、どうやら魔王城の畑はそんなことをしなくても大きな芋が採れるらしい。

 小さな芋を油で揚げてサクサクホクホクを楽しもうと思って芽かきをせずに作っていた一部の芋を引っこ抜いたとき、こぶし大の芋がわさわさ付いていた時のなんじゃこれ感は忘れない。

 この畑で小さな芋をサクサクホクホクして楽しもうと思ったら育成期間を短くする以外にないらしい。

 というわけで小さな芋を楽しむ用に作っていた一角はすでに収穫をしなければならないわけだ。

 小さい芋は自分が楽しむ用なので手作業で収穫してもいいが、せっかくなので収穫用の農業機械も造ってしまおう。

 こっちについても前世の記憶はあまり役に立たないが、ひろしはさつまいもの収穫機械の映像を動画サイトで見たことがあった。

 その動画ではベルトコンベアみたいのが付いた機械を使っていたような気がする。

 おそらく畝に盛られた土を丸ごと掘り起こして、土だけをベルトコンベアの下に落としていたのだと思う。

 そうなると機械の先端はブルドーザーのように土を掘る形にしなければならない。

 そしてその土をベルトコンベアで振るい落とす仕組みになるが、どうやって芋を回収しようか。

 どれだけ土を振るい落としても完全に芋だけにはならないだろうしな。

 ここは手動でやるしかないか。

 走るベルトコンベアのような機械に乗り込んでベルトコンベアで流れてくる芋をひたすらに木箱に拾うという過酷な単純労働が待っていそうだが、腰をかがめて芋を掘り続ける重労働よりはマシだろう。

 でもこれ、細かい芋が土と一緒に落ちちゃって回収できなくないか。

 仕方がない、今回は芋を拾わずに落とそう。

 それを後から回収する。

 掘り起こしてくれるだけでもかなり楽になるはずだ。

 私は設計を頭の中で纏め、素材を引っ張り出した。

 今日も徹夜になるな。

 朝食の時間を忘れたらユキトの顔面キックが楽しめそうだ。

 モフっとした足の感触がたまらないんだよね。






「うーん、楽々〇んちんとはいかないな……」


 ユキトのモフっとキックを食らいながら機械を完成させたが、結構手動の部分も多くてこれはめんどくさい。

 まあ見渡す限りのジャガイモ畑を全部手作業で掘るよりは楽なんだろうけど、今までの機械が運転してるだけだったからなんか忙しく感じてしまう。

 労働ってめんどくさい。

 全自動AIロボットみたいなゴーレムを作って全て任せられるようになったらいいのにな。

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