67.軍の横暴

 オリハルコンはただのオークだった成金のブルーノをオークキングにまで押し上げた最強の金属だ。

 通常の武器なんかは全く通用せず、魔法系スキルの類も効かない。

 オリハルコンの鎧に傷をつけるためには同じオリハルコン製の武器を使うしかない。

 オリハルコンを持っていない私が目の前のこいつを倒そうと思ったら、ユキトが成金のブルーノを倒したように鎧で覆われた部分以外を攻撃する以外に方法はないだろう。

 だが焦る必要はない。

 私にはこの魔王城の結界があるのだ。

 たとえ勝てずとも、負けなければいい。

 とにかく焦ってはだめだ。

 深呼吸小周天。

 

「小娘よ、貴様が魔女であろうがなかろうが私にはどうでもいいことだ。この土地は我がクリシュナー男爵家の領地である。よって貴様は不当に占拠しているこの建物をただちに明け渡し、税としてこのじゃがいもとかいう作物を治めるのだ」


「はぁ?」


 ふざけるんじゃない。

 よりにもよってこいつは私の切り札である魔王城を明け渡せという。

 じゃがいもだってタダで渡せだと。

 私がどれだけ頑張ってこの量の芋を育てたと思っているんだ。

 農業機械だって作ったし、ちゃんと収支を付けたら今年は赤字になるかもしれないんだぞ。

 

「話にならない。私の認識ではここは誰の土地でもない。じゃがいもが欲しかったら魔石と交換だ」


「いいや、ここはクリシュナー領だ。私はそこの領主だ。勘違いするなよ小娘。これは命令だ。従わなければ殺して徴収してもいいんだぞ」


「ここがクリシュナー領だっていうならオークキングからも税金取ったらいい。2匹死んだらしいけど、まだ4匹いる。さぞいっぱい税が取れるんじゃないの」


「小娘がぁっ!!つけあがりおって!!!もういい。お前たち、この娘を痛めつけてわからせてやれ」


「「「へいっ」」」


「へへへっ、領主様、少し楽しんでもいいんですよね」


「死なない程度にな」


 兵士たちはにちゃりとした笑みを浮かべながら結界に近づいてくる。

 キモい。

 私の身体は少しは成長したとはいえ、まだまだ同年代の子供たちと比べると発育が悪い。

 こいつらひろしの同類かよ。

 まあそんなに期待して近づいてきても結界の中には髪の毛1本入ることはできないけどな。

 あのトカゲと巨人の攻撃を防ぎきった実績を持つ結界を私は信頼している。

 兵士たちが結界の境目に到達し、見えない壁に遮られた。

 べったり張り付いて馬鹿面を晒している。


「なっ、なんだこれは。見えない壁があるぞ」


「くそっ、やっぱりこいつ魔女か」


「ええい、こんなもの!!」


 兵士の一人が槍を突き出すも、全く刃が立たない。

 魔王城の端末を取り出して確認すると、ダメージはゼロだった。

 こいつらの槍の攻撃はおカマのノック以下の威力しかないらしい。

 ちょっと安心した。

 1でもダメージがあればみんなで頑張れば魔王城のポイントを減らすことができてしまうからな。

 それは地味に迷惑だ。

 兵士たちが私にとって脅威になりえないことがわかって安心したら、お腹が空いてきた。

 ご飯食べてお昼寝でもしよう。


「じゃがいもの取引は今日はこれまでにする。じゃ、また明日」


「こら、待て!!」


 待てと言われて待つわけないだろ。








 結局あのあと夜まで寝てしまった。

 成長期だからいくらでも寝れる気がする。

 まあ成長はあまり実感できないが。

 なんか狐の力を取り込んでから成長が止まった気がする。

 いっぱい食べていっぱい寝ないとな。

 

「おはようございます、魔女様」


「ああ、おはよう」


 サンドイッチを齧りながら交易のためのじゃがいもを準備していると、周辺村の村長の一人が話しかけてきた。

 村長は屈強な若者を連れており、若者は重そうな魔石がパンパンに詰まった袋を持っていた。

 魔石を持っているということはじゃがいも交換か。

 村人たちはあまり食料を持ってきていないようだから交換したじゃがいもを調理して朝ごはんにするのかもしれないな。

 私は村長から魔石を受け取り、木箱1つ分のじゃがいもを渡した。

 屈強な若者でもさすがにじゃがいもが満杯に入った木箱は一人では持てないようで、何人かで運んでいった。

 それを見た村人たちは交易が始まったと思ってどんどん寄ってくる。

 朝食くらい食べさせてくれ。

 私は適当な村人を数人じゃがいもで雇い、交換業務を代行させた。

 最初からこうすればよかった。

 落ち着いて朝食を食べられるようになった私は、魔王城の周辺を見回す。

 村人たちは昨日はここに野営したようだ。

 昨日のうちに帰れるはずだった村人たちには申し訳ないな。

 うるさい領主軍を恨んでくれ。

 その領主軍もまた、湖畔で野営していた。

 場違いな軍用の天幕が並んでいる一角がある。

 たぶんひと際豪華な天幕が領主のいる天幕なんだろうな。

 もしここが戦場で、私が敵だったら真っ先にあの天幕を焼くだろう。

 戦場じゃなくてよかったな。

 そんなことを考えていると、外の喧騒に気が付いたのか兵士たちがゾロゾロと天幕から出てきた。

 昨日のことを恨んでまたこちらに絡んでくると思いきや、兵士たちは村人たちに絡み始めた。


「おい貴様、そのじゃがいもとやらを軍が徴収する。さっさと供出せよ」


「そ、そんな無体な……」


 なにやってんだあいつら。


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