61.悪魔の植物

 女の子の名前はレイラといい、男の子はジャックとリオンというらしい。

 男の子のほうはどうでもいいけど、女の子の名前はよく覚えておこう。

 レイラね、可愛い名前だ。

 大分落ち着いてきた3人にユキトとの関係などを聞いていく。


「へぇ、じゃあユキトがオークに捕まっていた村の女の人たちを連れ帰ってきたんだ」


「うん。ほとんどの人は心が壊れちゃって死んじゃってたらしいんだけど、少しだけまだ生きる意思のある人がいて、その人たちを村まで連れてきてくれたんだ」


 ユキトと村の子供たちの出会いはそんな感じのものだった。

 考えてみれば性欲旺盛なオークたちの集落に女の人が捕まっていないはずがなかった。

 ユキトはいつもオークの死体しか私のところには持ってこないけれど、そういう人もちゃんと助けて連れて帰っていたのだ。

 私のところに連れてきても私が困ってしまうだろうと考えて近くの村に送り届けていたらしい。

 捕まった女の人もその村出身の人が多く、村人たちからは感謝されていたようだ。

 賢い兎だ。

 いい子いい子してあげよう。


「この兎さんユキトって名前なの?」


「そうだよ?」


「魔女様のペットだったんだ。どうりで強いはずだよ」


「使い魔っていうやつか。初めて見た」


「私は魔女じゃないし、ユキトも使い魔じゃないって」


 この子供たち、全然私の話を聞かない。

 いや子供なんてこんなもんだったかな。

 まあ私も子供なんだけど。

 

「でもどうしよう。魔女様のおかげで助かったけど、村に帰る道がわからないよ」


「うーん、どうしよう」


「結局あんまり魔石も取れなかったしね」


 子供たちは3人で車座になって相談を始めた。

 安易に人を頼ろうとしない態度は感心するが、なんでも自分たちでやろうとするのもどうかと思うぞ。

 元はといえばその大人に頼ろうとしない姿勢が原因でこんなことになっているんだからね。

 

「ユキト」


『…………』


 ユキトは了解と右前足を上げて答える。

 可愛い。

 テクテクと可愛らしい仕草で子供たちの前に出ると、ユキトは前足で自分を指して胸を張った。


「え、兎さんが村まで案内してくれるの?」


『…………』


 コクリとコミカルな仕草で頷くユキト。

 可愛い。


「ユキトは護衛もしてくれると言っている。一応私もついて行くよ」


「すごいっ、魔女様兎の言葉がわかるの?」


 子供は何に食いつくのかわからん。

 すぐに思考が飛躍するのもちょっと苦手なところかも。

 あと兎の言葉はわからん。  

 私が教えて欲しいくらいだ。


「ありがとうございます魔女様。でも、いいんですか?」


「別にいいよ。家に居ても暇なだけだし」


「そうなんですね。改めてありがとうございます」


 そう言って頭を下げるレイラの姿にほっこりする。

 やはり女の子は男の子よりも早熟だというのは本当だな。

 でもそのちょっと大人ぶった態度はロリコンの琴線を刺激するので危険だ。

 





「できたよ、鹿乳シチュー」


「うわぁ、美味しそう!」


「ありがとう魔女様」


「食事まで用意させてしまってすみません」


「いいからいいから、食べよう」


 今日の夕食は皮をパリパリに焼いたチキンソテーとふわふわの天然酵母パンだ。

 ちょっと栄養が偏っている気がしたので急遽鹿乳シチューを作って追加した。

 やはりキャンプ料理は火加減が難しいけれど、これはこれで楽しい。

 みんなで焚火を囲んでご飯を食べるなんてひろしも経験したことのないことだ。

 考えてみれば私が経験してきたことはほとんどひろしが経験したことのないものばかりだった。

 今でもひろしの知識に頼ることは多いけれど、私自身の経験値もいい感じに増えてきているようで嬉しいな。


「うん、美味しいね」


「すごい美味しいです。こんな美味しい物食べたことないかも」


「魔女様、これなんですか?」


 レイラがフォークで刺して聞いてきたのは、チキンソテーに付け合わせたフライドポテトだった。

 ジャガイモはこのあたりではあまり一般的な作物ではないのか、レイラは全く知らないみたいだった。

 しかしジャガイモがなんなのかを口で説明するのは難しいな。


「えっとこれはフライドポテトっていって、ジャガイモを揚げた料理」


「ジャガイモってなんですか?」


「ジャガイモはこう、地下にできる芋の一種で……」


「芋ってなんですか?」


「え、芋は、えっと……」


 ジャガイモだけではなく芋の類が全く知られていないとは。

 カブなんかの根っこを食べる野菜は私が育った街でも作られていた。

 山深いこのあたりでもさすがにカブはあるだろうから、カブの亜種って言えばいいのかな。

 いやカブと芋は違うか。

 もう実物を見てもらったほうが早いかな。

 私はガチャボックスから1つのカプセルを取り出す。


「ちょっとそこ開けて」


「「「はい」」」


 私は子供たちがどいてできたスペースにジャガイモが満載された木箱を出した。

 ジャガイモが1000個くらい入るように作った1メートル×1メートルの大きな箱だ。

 木箱の蓋を開けてジャガイモを3つ取り出し、また蓋を閉めてカプセルに収納する。

 

「すごいっ、魔法だ」


「村に帰ったら自慢しよう」


 ガチャボックスは確かに魔法っぽいかもな。

 ゲイルとエリシアも最初は魔法の一種かと思っていたらしいし。

 私は興奮して騒いでいる男の子たちを放置してレイラにジャガイモを見せる。


「これがジャガイモ」


「土が付いてる。土の中にできる野菜なんですか?」


「そうだよ、一応実も成るんだけど、そっちは食べられない」


「へぇ、変わった植物ですね」


「別名悪魔の植物という」


「「「えっ」」」


 子供たちの引きつったような恐怖の表情はなかなかにそそるな。

 どうやら私にはSの気もあるらしい。

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