57.久しぶりのガチャ

 うず高く積もった湖周辺の雪もほとんど融けた頃、その日はやってきた。


「ついに、1000ポイントが貯まった」


 ガチャポイントが110連ガチャを回すことのできる1000ポイントに到達したのだ。

 この日をどれだけ待ち望んだことか。

 1日3ポイントしか手に入らないポイントを1000ポイントまで貯めるのに必要な期間はおおよそ1年。

 つまり私は1年もの日々をガチャを我慢して過ごしてきたということになる。

 エロゲですぐ堕ちちゃう女の子くらい意思の弱い私にしてはものすごく頑張ったな。

 美味しい物が食べたいとか、新しい銃が欲しいとかそういう軽い気持ちでガチャを回してしまいそうになったことも数えきれないほどにある。

 ガチャを1回回すだけならば10ポイントの消費で済むから、4日でポイントは元通りになる。

 しかしだからといってそんなことを気軽にやっていてはいつまで経ってもポイントが貯まることはないからな。

 

「よし、さっそく回そう」


 スキルを発動するといつものようにガチャマシンが具現化する。

 何度見ても不思議な光景だ。


『…………』


 ユキトも突然現れたガチャマシンをそっと前足でツンツンしている。

 どうやらこのガチャマシンは私以外にも見えているようだ。

 そして触ることもできる。

 では回すことはできるのだろうか。


「ユキト、回してみる?」


『!』


 ユキトは元気よく右前足をあげて肯定の意思を示す。

 可愛い。

 ユキトの背丈ではガチャのツマミに手が届かないので抱き上げて前足が届くところまで高い高いしてあげる。

 ユキトはガチャのツマミに前足を置いていつものように謎の器用さを発動させようとするが、いつまで経ってもツマミが捻られることはなかった。


「回せない?」


『…………』


 ユキトはしょんぼりと肩を落とした。

 どうやら自力で回すことは不可能だったようだ。

 ということはこのガチャマシンは私以外にも見えるけれど、回すことは私にしかできないということになる。

 私は物欲センサーを信じているので、ユキトのような人間とは価値観の異なる魔物にガチャを回してもらうことによってそれを回避できるのではないかという思惑もあったが、回せないんじゃあ仕方がない。

 

「ユキト、これはこういうものみたいだからそんなにしょんぼりしなくてもいいよ。そうだ、一緒に回そう」


『!』


 ぴょんと元気になるユキト。

 可愛い。

 私はユキトの小さな前足を持ってガチャマシンのツマミを一緒に回す。

 こうすることで少しでも物欲センサーが騙されてくれればいいのだが。

 あとモフっとした前足の感触が気持ちいい。

 ガチャリという音がしてカプセルが転がり出てくる。

 その色は虹色をしていた。


「え?」


 一瞬思考が真っ白になった。

 しかし次の瞬間には脳が事態を理解して私の身体は歓喜に包まれる。


「虹色ぉぃっ!!Sランクぅぅぅっ!!!」


『…………?』

 

 私は虹色のカプセルを持ったユキトを頭上に掲げて部屋の中で踊り狂う。

 物欲センサーを回避できるかもしれないという期待はあったが、まさか1回転目でSランク確定の虹色カプセルが出るとは思わなかった。

 Sランクということは魔王城と同じレベルのアイテムが入っているということだ。

 やはりユキトは持っている兎だ。

 この世界でも最底辺と言ってもいい兎畜生の身でありながら魔境でも屈指の強者になっただけのことはある。

 なんだか最近うきうきと森に出かけていくと思ったら、毎日オークジェネラルを狩って帰ってくるのだ。

 たぶんまたいずこかのオークキングの集落を攻めていると思われる。

 成金のブルーノ以外のオークの集落なんてもはや城だ。

 そんな難攻不落の城に、面白いとばかりに攻めに入るユキト。

 そりゃあ持ってるよな。

 ひろしの国の偉人である豊臣秀吉みたいな奴だもの。

 

「ありがとうね、ユキトのおかげだよ」


『…………』

 

 虹色のカプセルがとても良い物だということはわかったようで、カプセルを持って自慢げにふんぞり返るユキト。

 可愛い。

 ユキトはカプセルを頭の上に乗せてバランスをとって遊び始めてしまう。

 可愛いが中身を先に取り出させてほしい。

 申し訳ないが魔王城が入っていた虹色のカプセルと交換してもらった。

 カプセルには色によっての性能の格差は無い。

 魔王城を移動する際には適当なカプセルにでも入れておけばいいのでユキトにあげてしまっても問題はない。

 ユキトは中身にはあまり興味がないようで虹色のカプセルをもらって喜んでいる。

 1個だけだがなんでも入れることができることを伝えると、ユキトは宝物であるトカゲの目玉を入れた。

 何を宝物だと思うかは個人の自由である。

 私にとっては新しく出た虹色カプセルの中身のほうが興味があるものだ。

 残りのガチャを回す前に鑑定してしまうおう。

 私は虹色のカプセルをガチャボックスに入れ、アイテム鑑定を発動する。


名 称:月神の酒盃

ランク:S

詳 細:月神が晩酌するときに使う酒盃。月の光を当てると神酒ソーマが湧き出し盃が満たされる。ソーマは飲めばいかなる傷病であろうと完全に癒す力を持つ。


 とんでもないものが出た。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る