46.お仕事見学
涙を堪えて2人と別れた私だったが、別に2人の仕事を見学しないとは言っていない。
ゴブリンキングのいる集落の場所は2人に聞いたので私も知っている。
スコープでその場所を一方的に覗き見ることのできるポイントにもいくつかあたりを付けてあった。
私は肩にユキトを乗せ、ほうきに跨ってその場所に先回りした。
そういえば、この白い兎のユキトについても2人は面白いことを言っていた。
なんでも小さな兎の姿をした魔物にそんなに強い種類はいないらしい。
ユキトの姿からおそらく牙兎という種類の魔物だろうというのはわかったが、牙兎の強さはゴブリンと大差ないそうだ。
つまりユキトのようにネームド魔物とやり合えるほどに強いはずがない。
頭がいいということは認めてくれたけれど、最後まであの2人はユキトが強い魔物であることをあまり信じてくれなかったな。
まあ前世の記憶とチートスキルを合わせ持った幼女がいるのだから、なんらかのレアなスキルを持った兎やゴブリンがいてもおかしくはないよね。
ユキトはただとても頭がいいだけで人間だった頃の記憶があるわけではないというのは色々なやり取りから分かっていることだけど、スキルに関してはどんなものを持っているのか私は知らない。
なんかすごいスキルを持っていると思うんだけどな。
まあどんなスキルを持っていてもこの兎が義理堅くて寂しがり屋だということに変わりはない。
あと最近は結構食いしん坊だということもわかった。
ナイフとフォークを器用に使って口いっぱいにお肉を頬張る姿はカレンダーにしたいくらいに可愛い。
ノートパソコンはあるからプリンターとインクと用紙さえあればポスターでもブロマイドでもなんでも作れるんだけどな。
ちょっとだけガチャを……。
「ダメだ。精神が不安定になるとすぐにガチャに手が伸びでしまう。私の悪い癖だ」
この間ガチャをやったせいで今はガチャポイントがほとんどない。
今度こそ110連ガチャが引けるまで貯めると決めたのだから、溜まったポイントを片っ端から使ってどうする。
今は2人の仕事を見学することに専念しよう。
やがて目印のノッポの木が見えてきた。
この木にはいつも空を飛ぶと襲ってくる鳥の魔物の巣があったのだが、つい先日ユキトが何気ない顔して鳥と卵を狩って持ってきてくれたので今は空き家となっている。
私はほうきを止め、その空き家にお邪魔する。
木の枝や枯草を幾重にも重ねて作られた鳥の巣は、あの巨体が休んでいただけあって私一人が乗ったくらいではびくともしない。
1本が私の身体と同じくらいある大きな鳥の羽がそこら中に落ちていて、あの鳥がどれだけ大きな鳥だったのかが伺える。
しかしただ大きくて飛べるというだけで魔法などを使ってくるわけでもなかったので、ユキトの相手にはならなかったのだろう。
私が唐揚げの作り方という知識を有していたのが運の尽きだったな。
ユキトはよほど唐揚げが気に入ったのか、ガチャから出た鶏肉が無くなってしまった時はこの世の終わりのような顔をしていたのだ。
鳥にしてみればそれが人生の終わりに繋がってしまったのだから皮肉なものだ。
「なんか鳥のこと考えてたら私も唐揚げが食べたくなってきた。今夜は唐揚げにしようか」
ユキトは万歳三唱して全身で喜びを表現する。
兎が万歳してるのは可愛いな。
たぶん普通の兎はそんなに肩の可動域が広くないと思うのだが、ユキトの器用な前足はグルングルン回るしナイフとフォークも持てる。
人間のように長い指があるわけでもないのにまるで手に吸い付いているかのように道具を使うのは確実になんらかのスキルの力だろう。
私のガチャに匹敵するかもしくは余裕で超えてくるようなチートスキルを持っているんだろうな。
街に行ってお金を払えばペットのスキルでも鑑定してもらえるようなので、そのうち調べてみよう。
「さて、2人はそろそろゴブリンの集落に到着する頃かな」
あの2人は森の中を高速で移動する。
私も最近は結構森の中を走るのが速くなってきたのだが、あの2人の速さは異常だ。
さすがにほうきで直線的に飛んできた私よりも早くゴブリンの集落に到着することはなかったみたいだが、もうすぐ到着することだろう。
しっかりスタンバって2人の雄姿を目に焼き付けておかないと。
私はライフルを取り出し、スコープを覗いてゴブリンの集落を覗き見る。
ゴブリンの集落は木の柵で囲まれた半径200メートルくらいの普通の村みたいな形をしている。
浅い堀はキングが生まれてから防衛のために掘られたのか、幅が一定になっておらずお粗末な出来だ。
柵も元々あったものを増築して高さを嵩増ししているようだが基礎がしっかりしていないためグラグラ揺れて今にも倒れそうな状態になってしまっている。
キングが生まれた魔物の群れは生殖能力を強化されて頭のいい個体が生まれる可能性も高まるようだけど、まだまだゴブリンたちの知能がまともに機能し始めるのは先のことのようだ。
森の中のトレーニング中にオーク六王(今は五王)の作った集落を見たことがあるが、あっちは人間がこの森に足を踏み入れるずっと前から集落を築いていたせいか下手な砦よりも防衛力が高そうな立派な城壁があったのを覚えている。
ユキトはあんな場所に単身で挑んでジェネラルとキングの首を取って帰ってきたというんだから凄い兎だ。
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