45.楽しい時間の終わり

 お風呂でエルフとキャッキャウフフしたり、おカマが酔って脱ぎだしたりと色々あった。

 楽しい時間というのはあっという間に終わってしまうもので、眠ったらもう次の瞬間には朝になってしまっていた。

 ゴブリンキングを倒した後もうちに寄って1泊していって欲しかったのだが、ゴブリンキングの巣にはきっと村や街道から攫われた人たちがいるだろうから無理だと言われた。

 悲しいことだけど、ゴブリンが増えれば必ず起こってしまうことなのだという。

 きっとエロゲみたいなことをされて精神的に限界状態だから早く故郷に帰してあげたほうがいい。

 

「アリアちゃん、きっとまた会えるわよ」


「いつか街に来たら冒険者ギルドで私たちの名前を出してくれれば連絡が付くようにしておくわ。そういえば言ってなかったけど、パーティ名は『妖精の角』よ」


 妖精の、角?

 妖精に角があるイメージは無い。

 角といえばこのおカマだけど、もしかしなくても妖精というのはゲイルのことなのだろうか。

 エリシアが妖精のように可愛らしいというのはわかるが、ゲイルは妖精というよりも……。


「なによ!いいじゃない自分のこと妖精だと思って!心は妖精のように可憐なのよ!!」


「いや、何も言ってないけど」


「もうっ、お別れなんだからかっこつけさせてよ。鬼人族ミカヅキの里のゲイルがアリアを一人前の戦士と認める!ってこれアタシの里の成人の宣誓なんだけどよかったら受けてもらってもいい?」


「私はまだ11歳だけど成人しちゃっていいの?」


「まあ形だけだから。外から来た旅人なんかにパフォーマンスとしてやると結構ウケるのよ。どうせ一族と関係ない人なんだからって最近は安売りしてるの。もちろん一族の成人の儀はもうちょっと真面目にやってるわよ」


「へー」


 観光客向けのイベントみたいなものか。

 確かに屈強な鬼人族に戦士として認められるとなんか嬉しいかもしれない。

 安売りしているならいただいておこう。


「んでこれ成人の証としてあげるわ」


 ゲイルが差し出してきたのはいつも背中に背負っていた金棒だった。

 グリップエンドの穴の開いた部分がハート形になっているおカマ仕様のアイアンメイスだ。

 そのグリップエンドの穴にはストラップのようなものが付けられている。

 色々と細工が施されているが、このちょっと曲がった円錐形の石みたいなやつはもしかしなくても抜け落ちたおカマの角だろうか。


「武器を私にくれちゃっていいの?」


「これは練習用で、本気バリバリのときはもっといいの使うからいいのよ。このグリップエンドに付いている角笛は鬼人族の民族工芸品でね、作り手によって一つ一つ模様と音色が違うの。これはアタシが作ったものだから、これと同じものを持っている人はほとんどいないわ。これを見せればすべての鬼人族とまではいかなくとも、アタシのことを知っている鬼人族は友好的に接してくれるはずよ」


「ありがとう」


 観光客向けのパフォーマンスとか民族工芸とか、鬼人族の主な収入源は観光業なのだろうか。

 戦闘民族なイメージが崩れていく。

 もはや角生やしたおっさんたちがニコニコ笑いながら角笛やお饅頭を売って成人の儀のパフォーマンスで荒稼ぎしているイメージしかない。


「成人おめでとうアリアちゃん。私からもプレゼントがあるの」


「エリシアも何かくれるんだ」


「ええ、私からはこの縁結びのタリスマンをあげる」


「縁結び?」


 またエルフらしからぬものが出てきた。

 私がチ〇ポの生えた女の子を探していると話したから出会えるといいねという意味だろうか。


「このタリスマンはエルフの主要産業の一つで、尋ね人の身体の一部があればその人がいる方角を知ることのできるアイテムなのよ」


 エリシアが首にかけてくれた細工の入った木片みたいなものは、とんでもない代物だった。

 エルフは凄い物を作るな。

 私は望むものを探すためのダウジングクリスタルというアイテムを持っているが、これはその下位互換といっても過言ではないだろう。

 400回以上ガチャを回してまだ4個しか出ていないAランクアイテムの下位互換ということは、このアイテムはBランクくらいの性能を持つということになる。

 なんだかどこか牧歌的な鬼人族の話を聞いてからのエルフだと落差が凄い。

 どちらが儲かっていそうかといえば確実にエルフだろうな。

 身体の一部があればその人がいる方角がわかるって、もう軽くひろしの世界の技術を超えているからな。

 ひろしの世界ではデータさえあれば身体の一部から人物を特定できるんだったか。

 一概にどちらのほうが優れているという話でもないか。


「これは私の髪を使って作ったタリスマンだから私の場所がわかるようになっているの。それでね、この裏に入った紋章は精霊印って言って精霊力を使って描いた特殊なものなのよ。エルフって出不精だからあまり出会わないと思うんだけど、なんか文句言われたらその紋章を見せなさい。私ってこう見えてもエルフの中では有名人だからきっと少しは効果があるはずよ」


「エリシアったらエルフたちの間では神童って呼ばれてるのよ。200歳超えて童ってウケるわよね」


「う、うるさいわね!エルフはみんな歳寄りばっかりだからいつまで経っても大人扱いしてくれないのよ!!」


 さりげなく歳をばらされたことには怒らないのだろうか。

 200歳っていうのも人間の私からしてみたら想像できないような年齢だ。

 前にエリシアからエルフの子供期間は人間の2倍くらいだと聞いたことがある。

 個人差はあるものの、大体50歳くらいまでには全員が成人の儀を済ませて大人になるのだという。

 エリシアも例外ではなく、成人してからすでに150年くらいは経っているはずだ。

 それなのに子供扱いされてしまうというのはエルフの年齢の感覚は軽くバグっているようだ。

 まあひろしも実家に帰るといつも祖父母や親戚のおばちゃんたちからは子供扱いされていたから、きっとそういう感覚なんだろうな。

 

「このタリスマンは水の精霊が宿っているから水に浮かべて使ってね。この模様の先が必ず私の方を向くようになっているわ。寂しくなったら必ず会いに来てね。約束よ」


「そのうち絶対に会いに行くよ。だからそれまで、気を付けて冒険してね」


「ええ、待っているわ。必ず来てね」


 3人で手を絡ませ、別れを惜しむ。

 危うく涙が零れそうになった。

 自分で別れを選んで泣くのはカッコ悪い。

 私は必至で堪え、手を離した。


「じゃあ、また」


「ええ、またね」


「また会いましょう」


 縁結びのタリスマンなんていうものまで貰ったのだ。

 いつか私が街に行くことになったとしてもどこかで会うことができるのは確実だ。

 なのに、2人の姿が見えなくなったあたりから私の目からは涙が止まらなくなった。

 今まで親しい人なんていなかったからわからなかったけれど、別れっていうのはこんなにも寂しいものなんだな。

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