41.でかい金棒振り回すのはロマン

 ゲイルの教えてくれる技術はそのほとんどが魔力を扱う技だ。

 これは一般的にはとても難しい技術らしいのだが、私は魔力を感知することができるのでそれほど難しいことではなかった。

 はっきりとわかるようになったのは小周天ができるようになった頃なので、おそらくは気功術のおかげなのだろう。

 このアドバンテージのおかげで私はゲイルの教えてくれる魔力の技術をあっという間に習得した。

 身体強化は脳のリミッターを強制的に解除する技で、魔勁術は魔力を自分の身体や武器に纏わせて強化する技だった。

 ユキトが使っていたのはおそらくこの魔勁術だ。

 言葉を話さないユキトに教わるのは大変だっただろうから助かった。

 そんなわけで、もうゲイルに教わることは格闘術くらいしかない。

 武術というものはそんなに短期間で習得することはできないので、一通りの型だけ教わってあとは自己修練ということになる。

 もちろんエリシアが教えてくれる弓術と短剣術も同じだ。

 型を一通り教わるのはそれほどの時間がかからず、2日ほどで全て教わり終えてしまった。

 2人の本業である冒険者業のほうはゴブリンキングの子供であるジェネラルの数が思ったよりも多かったようで、少しずつ戦力を減らさなければならないらしい。

 まだ数日はかかりそうだとのこと。


「もうアリアちゃんに教えることが思いつかないわね。アイアンメイスの振り回し方でも教えようかしら」


「じゃあ私は精霊魔法?」


 残った数日は私には無理だと思われていた2人の主力武器をダメもとで教えてくれるらしい。

 ゲイルの金棒は振り回せたらさぞ気持ちがいいだろうし、エリシアの精霊魔法も使えたらかっこいいだろうな。

 しかし難易度は魔力操作や普通の武術の比ではない。

 金棒は下手したら1トンくらいありそうだし、精霊に至っては見ることも叶わない。


「まずはやってみせましょうか」


 ゲイルはそう言って金棒を手に取り、片手で持ち上げる。

 筋肉からミチミチと音がしてきそうな怪力だ。

 片手のまま軽く金棒を振って見せるゲイル。

 軽く振っただけなのに、ブンブンという野球の素振りのような音がしている。

 さすがにこの怪力は異常だ。

 ゲイルの筋肉がおかしいのか鬼人族という種族の特性なのかはわからないが、人智を超えたパワーだな。

 これがSランク冒険者というものなのか。

 化け物を倒すには自分もまた化け物にならざるを得ないということか。

 

「さあ、やってみて」


 できるか!と言って突き返したいところだが、チャレンジ精神というのは大切だ。

 1回だけやってみるか。

 私はゲイルの支えている金棒に手をかける。

 まずは小周天を使わずにだ。

 冷たい金属の塊だが、グリップには布が巻かれていて手が痛くならなないようにしてある。

 グリップエンドがハート形になっていることに今初めて気が付いた。

 こんな禍々しい武器に可愛い要素をプラスしてもよりおどろおどろしい印象にしかならないが。

 私はグリップを両手で握り、力を込めるが案の定ピクリとも動かない。

 次に小周天を使って身体能力を強化する。

 少し金棒が持ち上がった。


「うそでしょ、ゲイルのアイアンメイスを11歳の女の子が……」


「アタシもまさか本当に持ち上がるとは思わなかったんだけどね」


 2人は驚いているようだが、私は持ち上げるだけなら最初からできるとは思っていた。

 何か月気功術の練功を続けていると思っているのか。

 どうやら気と魔力の総量というのは比例しているようで、私が成長して魔力が増えるごとに集められる気の量も増えている。

 小周天は日々鍛えるごとに研ぎ澄まされていき、気の密度のようなものも増している気がする。

 数カ月前は30キロほどの米俵を持ち上げるのがやっとだったが、今の私にこの程度の鉄塊を持ち上げることができるのは当然のことなのだ。

 チャレンジ精神を発揮するのはここからだ。

 私は脳に魔力を流し、身体強化を発動する。

 身体強化は脳の電気信号に干渉しているわけではない。

 そんな難しいことが普通にできるわけがない。

 では何をやっているのかといえば、ただ脳に魔力を流しているだけだ。

 なぜだかわからないけれど、そうすると人は軽い快感を覚え気分が高揚する。

 ようはドーピングのようなものだ。

 だから以前身体強化の授業のときにゲイルは突然脱ぎだしたりしてしまったのだ。

 まさか素面の状態で服を脱ぐようなそんな人ではないと、そう信じたい。

 だがこの状態になってみると、興奮して脱いでしまったゲイルの気持ちもわからないでもない。

 身体の奥底からマグマのように力が溢れてくるイメージだ。

 じわじわとそれが侵食してきて、私は一段上の存在に進化したかのような錯覚を覚える。

 これが薬物中毒者が陥るような一時的な全能感であるというのはわかっているのだが、自分の中から湧き上がる気持ちには抗い難い。

 こんな状態だからこそ、自分の身体を顧みることなく全力の力が出るのだろうな。

 持ち上げた金棒にぐっと力を込めると、さっきよりもずいぶん軽く感じる。


「イける」


 私は金棒を思い切りフルスイングした。

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