42.精霊魔法

 イった、私の肩と腰が。


「大丈夫?アリアちゃん。身体強化の強度が強すぎたのね。ああ、腕も肉離れを起こしちゃってるわ。回復薬飲める?」


「だ、大丈夫。すぐに治るから……」


「そんなわけ、あるのかしら?」


 ある。

 小周天は身体能力を強化するだけではなく、免疫力や自然治癒力も強化してくれる。

 だからこそ病気にもなりにくくなるのだ。

 おそらくこのくらいの筋肉のダメージならば1時間も大人しくしていれば普通の筋肉痛程度にまで回復するだろう。

 森の中を毎日走っていれば怪我をすることもしょっちゅうだし、自分の回復力の異常さにも気が付くというものだ。

 

「それにしても、あの重たいゲイルのアイアンメイスを振り切るなんてすごい力ね。本当に種族は人間なのよね?」


「わからない。孤児だから」


 おそらく私は人間なんだと思う。

 気功術を始める前の身体能力は普通に人間の子供のものだったし、身体的特徴も変わったところはない。

 魔力はそこそこ多い方だと思うが、それも人間を超越するほど多いというわけではない。

 だから私の種族は人間で、身体能力が高いのは小周天のおかげだ。

 だけど気功術のことをどう説明したらいいのかわからないので適当に言っておく。

 実際孤児である私には種族が人間だという保証はないのだし、間違ってはいない。


「もしかしたらアタシみたいな鬼人族の血が混ざっているのかもね。そうだったら嬉しいわぁ」


「あんたみたいな鬼人族はあまりいないと思うけど、まあそうね。鬼人やドワーフの血が混ざっていたら力が強くて回復力が高い特性が出てもおかしくはないか」


 ドワーフの女性は大人になっても子供のような姿をしていて、全員が例外なく合法ロリなのだという。

 なんというロリコン垂ぜんの種族だ。

 ひろしのようなと殺されるべき人種にとっては求めてやまない種族だろうな。

 ちなみにエリシアは最初私がそのドワーフだと思ったらしい。

 しかし男も女もお酒好きとして知られているドワーフが、目の前でお酒を飲んでいる人を眺めて一緒に飲まないのはおかしいと思いその考えを改めたそうだ。

 

「でもそれだったら、私の精霊魔法もなんとかいけないかしら」


「練習したら精霊が見えるようになるかもしれないわねぇ」


 エルフの使う精霊魔法という魔法は自然界に存在している目には見えない精霊という存在にお願いして超常現象を引き起こしてもらう魔法だ。

 精霊の言葉は人間には聞こえないので、精霊に意思を伝えるのは精霊力という力を使うそうだ。

 精霊が見えるのもその精霊力という力のおかげで、その力を持つ者はほとんどいないと言われている。

 その唯一の例外がエルフだ。

 エルフはごく稀な例外以外は全員が精霊力に高い適性を持って生まれてくる。

 精霊力が強ければより精霊をはっきりくっきりと見ることができ、精霊とのコンタクトも上手い傾向にあるらしい。

 つまり精霊魔法が上手に使えるかどうかの適性は精霊がはっきり見えるかどうかである程度測ることができるのだ。

 しかし精霊が見えないからといって、精霊魔法の才能が全く無いと断じることはできないらしい。

 なぜならエルフでもよほどの天才でもなければ子供の頃は精霊が見えないからだ。

 精霊魔法に習熟した大人が協力して、精霊に少しでも意思を伝えて鍛えていくことによって精霊力というのは強化することが可能なのだ。

 精霊力に適性がある可能性は人間だったらほとんどないが、私の中に精霊力に適性の出やすい種族の血が混ざっていればわずかだが可能性はある。

 その可能性はそれほど高くはないだろうが、金棒と同じでチャレンジしてみることが大切だ。

 

「アリアちゃんは精霊に好かれているみたいだから才能がある可能性は結構高いと思うのよね。身体を休めている間に精霊魔法の練習してみましょうか」


「はい」


「じゃあまずは、ちょうど今アリアちゃんの顔の前に水の精霊さんがいるので水にしようか。アリアちゃんが今水の精霊さんにして欲しいことを頭に思い浮かべて、強く念じてみてくれる?安全なのでお願いね」


 私が今水の精霊にして欲しいこと?

 おっぱい揉ませてほしいけど、そういうことじゃないんだよね。

 というか顔の前にいるっていうことは水の精霊はかなり小さいのかもしれない。

 たとえイメージ通り女の子の姿をしていたとしても小さすぎておっぱいを揉んだという感覚はほとんど感じられないだろう。

 サイズ的にほとんどのエロいことは不可能だ。

 まあ手のひらサイズだからこそできるエロいことというのもあるが、とりあえず今はエロいことは忘れておこう。

 改めて水の精霊にお願いしたいことを考える。

 そういえば、今日はエリシアはずいぶんと薄着だ。

 エロいことを忘れようと思った次の瞬間にはエロいことが思い浮かんでしまった。

 先ほどの疑似ドーピングの高揚感がまだ多少残っていて、ちょっとエロい気分になってしまっているのが悪い。

 エリシアは精霊魔法で結界を張ることができるからか、いつも野営地ではグローブと胸当てを付けていない。

 今日は気候が暖かいため更にジャケットまで脱いでおり、黒っぽい長袖シャツ1枚なのだ。

 ノーブラなのかたまにツンと豆粒のような影が胸の真ん中のあたりに見え隠れしている。

 これがエロい気分にならずにいられるか。

 水の精霊よ、私の願いはあのシャツを水で濡らしてピタッと肌に貼り付けることだ。

 頼む精霊よ一生のお願いだからお願い、ねえ土下座するから、私金貨いっぱい持ってるから、この間いっぱいもらったからそれを全部あげよう、だからエリシアのシャツを水でスケスケピチピチにしておくれ。

 私の邪な願いは当然ながら精霊には届かなかった。

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