31.ライフルと細剣術
今日は庭先よりも少し遠くにゴブリンの餌を置いた。
距離でいったら大体魔王城から100メートルくらい先だ。
私はそこに集まり始めたゴブリンに照準を合わせる。
弾道計算などという高度な知識はひろしにはなかった。
だから私はスコープを銃口と平行になるように調整した。
そうすればスコープのど真ん中と銃口の距離がイコール着弾点のずれになる。
確かこのずれのことをパララックスというんだったかな。
本来は概ね悪い意味で使われている言葉のはずだ。
だが私は別にレティクルの真ん中と着弾点がずれてもいいと思っている。
そのずれが一定ならばそれを踏まえたうえで狙いを定めればいいだけだからな。
レティクルの真ん中と着弾点を合わせるためには標的との距離を正確に計測してスコープの角度を調整しなければならない。
距離を計測することのできる機器も知識も持っていないし、そんなことを毎回しているのは大変そうだ。
だからスコープを真っすぐにしてさえおけば距離がどれだけ離れていようと角度を調整する必要はないと素人ながらに私は考えた。
まあ実際0.01ミリ以下のずれなんかはあるだろうからある程度距離が開けば着弾点は確実にずれてくることだろう。
しかしそんなに遠くから狙撃を成功しなければならないようなことには今後ならないと思うし、なっても困るので今はこれでいいと思う。
銃口の角度はこれでいいとして、あとは風の計算か。
本物のスナイパーにはスポッターという人がペアで付いていて隣から風向きなどを伝えてくれるらしいが、私にはそんな人はいないので指に唾を付けて適当に計測する。
右手側からの横風、弱風。
まあ100メートルの距離ではこの程度の風の影響などはほとんど考えなくてもいいだろう。
Cランクの銃の中でもこのナイツ〇ーマメントSR-25は7.62mm×51mm弾という高威力の弾を使うライフルだ。
100メートルの距離で風に大きく狂わされるような弾速はしていない。
私は小周天を行いながら集中し、引き金を引いた。
肩にガツンと来る反動と共にゴブリンに死をもたらす弾丸が撃ちだされた。
反動に驚いて銃口が動いてしまったために弾丸は狙いよりも多少右にずれたが、ゴブリンの頭は綺麗に吹き飛んだ。
この銃の威力ならゴブリン程度どこに当たっても致命傷を負わせることができるだろう。
もう少し練習してみよう。
私はたて続けにライフルの引き金を引く。
7匹いたゴブリンが全滅した。
SR-25はセミオートライフルというもので、1回ごとにガチャコンとボルトをひくようなスナイパーライフルとは違い連続で弾を発射できるのだ。
便利だがいいことばかりではないらしい。
まず精度。
銃というのは必ずしも弾が真っすぐ飛ぶとは限らない。
銃身の僅かな歪みや部品の傷などによって同じ銃であっても命中精度が異なったりする。
そのため複雑な仕組みを持つセミオートライフルには命中精度にムラができやすい。
そして整備性。
当然だが仕組みが複雑になればメンテナンスは難しくなるし、故障することも多くなる。
だから遠距離からの狙撃だけを考えたらボルトアクション一択なのだ。
それでもセミオートのスナイパーライフルというものが存在している理由は、狙撃場所が見つかったときに中距離戦闘をしなければならないためだ。
スナイパーは育成するのが大変らしいので、貴重なスナイパーを敵に見つかったら終わりの使い捨てにするのはもったいないしそれでは誰もスナイパーになりたがらないだろう。
スナイパーを守るための人員を置いておくことのできない状況もあるし、スナイパー自身が戦えたほうが生存確率は上がる。
ガチャコンガチャコンしなければならないボルトアクションライフルで戦っていてはあっという間に死んでしまうので、連続で撃つことのできるセミオートライフルというものが存在しているのだ。
私のように孤立無援で戦わなければいけない者にとってはありがたい銃だ。
私は屍の山ができるまでずっと撃ち続けた。
ローストオークサンドでお昼ご飯を済ませ、午後からは近接戦闘のトレーニングをする。
相手はゴブリンだ。
拳銃でも簡単に倒せる相手とはいえ私の近接戦闘能力は未知数だ。
負ければ犯される危険な相手なので当然ユキトに見守ってもらいながらの訓練となる。
ゴブリンはたまに人間から奪った武器を持っていたりするので防具はきっちりと着用する。
私の機能性インナーは刃は通さないが伸縮性が高く柔らかいので衝撃までは防いでくれないのだ。
なのでインナーの上からトカゲの鱗素材を縫い付けたワンピースを着込む。
重たい全身鎧は最初から諦めて、急所周辺にだけトカゲの鱗を原料としたプレートを貼り付けたミニスカワンピース鎧だ。
ワンピースの生地にも巨人の皮を配合しているので布部分を切り裂かれて鎧がバラバラになってしまうことは無い。
ひろしの好きだったアイドル声優のコンサート衣装なども参考にして作ったデザイン性の高い防具だが、派手なので人目に付かないこんな場所以外ではあまり着たくない一品だ。
どんどん人里に着ていけない服が増えていくな。
まあこの湖の畔で私以外の人を見たことは無いので安心だろう。
ゴブリンはこれから死ぬ相手なので見られてもなんら恥ずかしくはない。
「じゃあユキト、頼むね」
短い右前足を上げて了承の意を示すユキト。
可愛い。
私は腰にぶら下げたサーベルを抜いて、ユキトがゴブリンを連れてくるのを待った。
5分ほどでユキトがゴブリンを引き連れて森から飛び出してきた。
ユキトは私の前まで普通の兎のふりをしていたようだが、どう考えても兎の足の速さでゴブリンから逃げてこられるというのはおかしいだろう。
しかしゴブリンは馬鹿なのでそれに気が付かない。
ユキトは唐突に立ち止まり、2本の後ろ脚で立ち上がる。
ゴブリンは驚く暇すら与えてもらえず吹き飛んだ。
何が起こったのか常人には見えないが、ゆっくり再現してもらった際にはすごい早さで何度も蹴りを入れていたのを覚えている。
ユキトの攻撃手段は基本的にその強靭な脚力から繰り出されるキックだ。
目にも止まらぬスピードで動き回り、神速の蹴りで敵を攻撃する。
単純だがそれゆえに強力。
体重が軽いので巨人やトカゲのように巨大な相手にはダメージが入りにくいという欠点はあるものの、オークくらいの体格の魔物を相手にするならば十分に一撃で首をへし折るだけの威力がある。
6匹のゴブリンもあっという間に首をへし折られて残り1匹となった。
これで1対1の戦闘訓練ができる。
私は小周天を行い、体内の気を練って高めていく。
ずっしりと重かった鉄製のサーベルが枯れ枝のように軽くなってくる。
ヨーロッパ最強の剣士ドナルド・マクベインの教えに従い、半身に構えてサーベルを軽く振るった。
一瞬遅れてゴブリンの首から血が噴き出し、ばったりと倒れ込んだ。
「小周天を使えば結構いけてるかも」
いきなり達人のようにとはいかないが、なかなか様になっているのではなかろうか。
小周天を行って身体能力を強化すれば剣速もそこそこ速くできる。
ゴブリン程度ならば複数匹を相手にしても問題ないかもしれないな。
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