26.生産活動

 次の日。

 昨日オークの肉をもらって私が喜んでいたのを見抜かれたのか、今日もオークの死体が庭先に転がっていた。

 オークの肉は牛肉と豚肉の間のようなとても美味しい肉で、ポークステーキ風にして食べた。

 かなり美味しかったのでいくらあってもいいが、そろそろ私のほうが貰いすぎなので心苦しい。

 木陰からまたチラチラと見ている兎に向かってお礼ともう十分だということを伝えて魔王城に戻った。

 今日は生産活動に勤しむと昨日から決めていたので変成陣と錬成陣を用意する。

 今日作るのは下着だ。

 私のおっぱいは相変わらず成長を始めた直後に急停止したようなわずかな膨らみなのだが、いつまでもノーブラではレディとして問題がある。

 まあさすがに寄せて上げたり下から支えたりするような機能は必要ないからジュニアブラのようなもので十分だが、諸事情によりバストトップの感度は高いのでソフトな生地で優しく包み込むようなものに仕上げたい。

 それでなぜ下着を作るのに変成陣と錬成陣が必要になるのかといえば、作るならば最高の下着を作りたいからだ。

 漫画洋裁入門の登場キャラである伝説の仕立て屋は新しい技術を学ぶ時間があれば今ある技術を究めるべきだと言っていたが、私は全てが全てそのとおりだとは思わない。

 元を正せば基礎として使われている技術だって、大昔は新しい技術だったはずなのだ。

 穴の開いた針に糸を通して服を縫うという単純なことだって、最初に開発した人にとっては今までになかった技術だったはずだ。

 それを否定することは全ての産業を否定するということになる。

 あくまでもそれは彼の職人としての在り方であって、自分の作りたいもののために必要な技術が既存のものではなかったとしたら、職人として積極的に挑戦するのも悪いことではないだろう。

 私が作りたいのはひろしの世界の下着、シームレス下着だ。

 シームレス下着はその名のとおり縫い目のない下着のことを言い、縫い目が肌に与える刺激を軽減できるために着心地がよく上に着る服にも下着のラインが出にくいと評判だった。

 これを作るためには今までのように針と糸で縫っていては不可能だ。

 なにせその縫い目が無いのだから。

 しかしこの世界にだってひろしの世界に負けない技術がある。

 それがゴーレムの作り方に書いてあった魔法陣だ。

 本当にこの世界の技術かは謎だが、この技術を使えばひろしの世界の下着に匹敵する下着を作ることも可能だろう。

 まずは生地の作成。

 下着の生地といえば綿やシルクだが、自然素材で作られた生地には伸縮性に限界がある。

 理想は綿のように肌に優しく、ポリエステルのように伸縮性に優れた素材だ。

 用意するのは綿織物とガチャで出た輪ゴム。

 単純な考えかもしれないが、この2つを錬成陣で融合させれば2つの素材の良いところを併せ持つ新素材が生まれるのではないかと思ったのだ。

 少しずつ配合を変えてやってみよう。

 



 気が付くと日が暮れていた。

 どうやらお昼ご飯も食べずに実験を続けていたらしい。

 物づくりは楽しいからついつい夢中になってしまう。

 ワンルームマンションのような狭い部屋には失敗作や融合前の素材で溢れている。

 足の踏み場もないとはこのことだろう。

 しかし色々な組み合わせを試したおかげで、面白い素材がたくさんできた。

 当初の予定だった下着に使う布はもちろんのこと、魔物の素材を混ぜた防御力の高い布なんかもできた。

 下着を作った後は防御力を上げるためのインナーを作ることにしよう。

 なにはともあれもう夜なのでさっさと完成させてしまおう。

 まずは下着だ。

 作ったストレッチ素材を型紙に合わせて切り、変成陣に乗せる。

 縫い代の無いタイトな寸法に切った生地の切断面同士を合わせ、変成陣の機能でつなぎ合わせていく。

 汚れやすい部分や敏感な部分に当たる場所には当て布をして、それも結合させていく。

 あっという間に縫い目のない下着が上下完成した。

 縫わなくていいというのはとても楽だ。

 今まで切った生地を縫い合わせるのに一番時間をかけていたのだが、これからはもっと変成陣を活用して時短していこうと思った。

 同じ手順で下着を5セットほど作り、次のインナーの作成に移る。

 使う生地は通気性に優れた麻布と伸縮性に優れた下着の生地、そして先日倒した巨人の皮膚を融合させて作った新素材だ。

 私だって巨人の皮膚なんて気持ち悪いものを使いたくはなかったが、対物ライフルの弾さえ弾くあの防御力は捨てがたい。

 ゲロを吐きながら生皮を剥ぎ、錬成陣を使ってしっかりとなめした甲斐もあり、それを融合させて出来上がった生地は素晴らしいものとなった。

 通気性、伸縮性、肌触り、防刃性能、耐久力、どれをとっても一級品で、この生地を下着に使いたいくらいだった。

 しかし巨人の皮で股座やおっぱいを包み込まれたくはないという生理的嫌悪が先立ってしまい、それはやめておいたのだ。

 まあ下着を間に挟んだインナーとしてならば使ってもそれほど嫌悪感を抱かない。

 着心地によっては今後嫌悪感は無くなっていくことだろう。

 私は自分の身体を隅から隅までメジャーで計り、型紙を作成していく。

 作るのは野球選手がユニフォームの下に着ているようなアンダーシャツと、足首までのレギンスだ。

 これで顔と手足以外はすべてカバーすることができるだろう。

 早速生地を切り、変成陣で結合させていく。


「おお、かっこいい」


 完成品はとても素人が作った物には見えず、ちょっと感動したので服を脱いで着てみた。

 炭素を混ぜ込んで黒く染め上げた生地で身体のほとんどをピッタリと覆うインナーは忍者みたいでエロかっこよかった。

 もうちょっと胸部がボインだったら立派なくノ一だ。

 このちっぱいじゃあひろしみたいなと殺されるべき人種しか悩殺できないな。

 

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