21.巨人の一撃
「あ、逃げた」
赤いトカゲの相方である多腕の巨人はトカゲがなんらかの攻撃を受けたのを見るや否や、すぐに踵を返して逃げ出し始めた。
異なる種族同士で連携をしたり相手に合わせて攻撃のパターンを変えたりしていたので高い知能を持っていることはわかっていたが、逃げるのは驚きだ。
狡猾なのか慎重なのかはわからないが、あの巨人は見た目に反してかなり頭脳派らしい。
案外私のように前世の記憶を持っていたりするのかもしれない。
ひろしの国のラノベにはそういう普通じゃない話も多かった。
ごく普通のサラリーマンだった男や高校生だった女が異世界のモンスターに転生して人間と仲良くしたり敵対して国を亡ぼしたりするのだ。
いわゆる人外転生というもので、ひろしも楽しんで読んでいた。
人外転生モノのラノベはスライムやゴブリンなどの最弱の魔物に転生して底辺から成り上がるか、ドラゴンなどの最強種に転生して最初から勝ち組人生を謳歌するのかのどちらかが多い。
だけど何に転生させるかで作者としての個性を出すことも多いので、ああいった普通に強そうだけどメジャーじゃないモンスターに転生した人のお話もあるかもしれない。
まあ現実にそんな人がいたとしても敵対したら倒させてもらうけど。
散々結界に攻撃をぶち込んでポイントを減らしてくれたのだ。
元地球人、元日本人だからって情状酌量の余地はない。
私は走って逃げる巨人の背中に12.7mm弾をぶち込んだ。
的がでかいので照準が適当でも案外当たる。
引き金を引き、立て続けにもう1発撃ちこむ。
巨人の巌のような肌は見た目通りに硬いらしく、トカゲ同様貫通はしなかった。
だが痛打を与えることはできたようで、鬼のような形相で巨人が振り返る。
『ヴォォォォッ!!』
本気で怒ったらしく、立ち止まったまま手あたり次第に周囲の木を引き抜いて投擲してくる。
神社の御神木のように立派な木が多連装ロケット砲のごとく連続で飛んでくるのは何度見ても恐ろしい。
だが魔王城の結界はその程度の攻撃では破れない。
次弾を頭のあたりに狙いを付けて放つ。
巨人は人型だが、急所が人と同じであるとは限らない。
先ほど背骨のあたりに当たった銃弾は巨人を怒らせたが、蹲らせることすらできなかった。
だが頭ならどうか。
頭に強打を食らえば、さすがに巨人でも無傷ではいられないのではないだろうか。
その予想は正しかったようで、弾丸をアゴに食らった巨人は膝をつき悶絶した。
これはいける。
私はここぞとばかりに弾を頭に集中させた。
ちょうど膝をついて頭が狙いやすくなったこともあり、何発かの弾丸が額や頬のあたりに当たる。
中途半端なダメージを受けた巨人は激怒した。
完全にキレた目をしてゆっくりと立ち上がる。
ゆらゆらと怒りのオーラが立ち昇っているような幻覚すらも見える。
実際なんらかのエネルギーを放出しているのかもしれない。
魔法やスキルのある世界ではなんでもありだ。
そしてなんでもありなら、怒りで何段階か強くなる敵というのもありえる。
私は怖くなって次々に弾丸を撃ちこむが巨人は銃弾を受けても全く狼狽えず、ゆっくりと血を流すトカゲに歩み寄った。
そしてその尻尾を掴んで持ち上げると、グルグルと回り始めた。
まさかのジャイアントスイングの構えである。
仲間であったはずのトカゲになんという仕打ちだ。
ただ共闘していただけで巨人にとってトカゲはいつ切り捨てても惜しくはない存在だったのかもしれない。
トカゲの尻尾のように。
ダジャレを言っている場合ではなかった。
巨大赤トカゲは尻尾を切り離す機能は持ち合わせていないのか、巨人にされるがままだ。
どんどん巨人の回転スピードが上がっていく。
もはや振り回されているトカゲは全く見えず、なんか赤い物が回っているようにしか見えない。
あれが飛んでくるのはかなりやばい気がする。
私はポイント残高を確かめる。
散々木の投擲や火球を受けて豊富だったポイントは3000ちょっとまで追い込まれていた。
14階建てマンションに進化できるほどに溜まっていたポイントが見る影もない。
本当に許せない奴らだ。
絶対にこれを耐えきってあいつらの魔石で弁償させてやろう。
『ヴォォォォッ!!!』
巨人が回転力の全てをトカゲに込め、手を離す。
赤い砲弾と化したトカゲがぶっ飛んでくる。
そのスピードはほうきに跨った私の全力よりもなお速い。
まるで新幹線が正面衝突したような地響きを立てて、トカゲが魔王城の結界にぶち当たる。
結界が揺れたような気がした。
端末で確認すると瞬間ダメージは1200程度だった。
過去一のダメージだ。
ポイントも3桁減ったが、意外と余裕だったな。
特級となった魔王城の結界は私が思っているよりもずっと丈夫なのかもしれない。
トカゲは猛スピードで結界にぶち当たったせいで首がへし折れて死亡。
あのスピードで結界に激突して損傷が首が折れただけなのも驚きだ。
だが驚いたのは私だけでなく巨人もだったようで、トカゲを投げた姿勢のまま呆然と立ち尽くしている。
まさかこの攻撃で結界が破れないとは思わなかったようだ。
しばらく放心していたが、気を取り直すとまた憤怒の表情になりオーラを放ちながら結界に体当たりをしだした。
それでも結界が破れないと分かると、多腕を使っての連続パンチなどめちゃくちゃに攻撃をしだした。
地味にポイントの減る攻撃をしやがって。
厄介だが、完全に頭に血が上った行動だ。
所詮こいつも少し頭がいいだけの獣だったということだ。
転生者でないことは確かだな。
私は暴れる巨人を前に、冷静に空になったマガジンを抜き弾を込める。
12.7mm弾はこの10発で終わりだ。
頼むからこいつで死んでくれと祈りながらマガジンをガチャンとはめ込んでリリースボタンを押し、至近距離で血走る目によく狙いをつけて引き金を引いた。
巨人の大きな眼球はさすがに防弾ガラスのように硬いということは無く、銃弾が通った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます