20.化け物ライフルの一撃

 この化け物ライフルを撃つために私が行った工夫は単純なものだ。

 ただ土嚢で銃を固定しただけ。

 土嚢は麻袋にただそのへんの土を入れただけのものだが、色々なことに使うことのできる便利なものだ。

 ひろしの国では洪水などが起こると水を遮るのにも使っていたし、戦場では銃の土台になったりもする。

 材料も袋と土だけなので大体どこでも作ることが可能だ。

 森の中では椅子の代わりになったりもするので私はここに魔王城を設置する前の森生活の時から適当な袋に土を入れて用意していたのだ。

 銃身と銃床の2カ所を重点的に土嚢で抑えれば銃が反動で暴れるのを防ぐことができる。

 これならば筋力も体重も無い私のような子供でもこの銃を扱うことが可能かもしれない。


『ヴォォォッ』


『グラァァッ』


 今も巨人とトカゲは魔王城に攻撃を浴びせ続けているためポイントは刻一刻と減っている。

 あの兎はもうとっくにこんがりハンバーグになっていると思うのだが、あの2匹の怪物はよほど兎のことが憎いのかそれとも怖いのか念入りに攻撃を仕掛けてくる。

 仮に兎が死んでいることを確かめることができたとしても、怪物共が魔王城を次の標的に決めないという保証もない。

 2匹で結託して兎を狩っているところを見るにあの怪物共の知能はそれなりに高いだろう。

 こんな場所に建つ結界に守られた魔王城を兎と同じくらい危険なものだと判断して攻撃を続けるということも十分に考えられる。

 早いところ退場願おう。


「当たってくれよ」


 不親切なことに、このライフルには光学機器が付いていなかった。

 弾を満タンにしたマガジンを付けてくれるならついでにスコープくらい付けてくれてもいいのに。

 この銃は2キロ先まで弾が届くと言われている対物ライフルだ。

 肉眼では当然2キロ先の標的なんかは見えないから遠距離から狙撃する場合はなんらかの光学機器を上にくっつけて狙うのが普通だろう。

 これではこの銃を遠距離射撃に使うのは不可能だ。

 他のライフルに付いていたスコープをこの銃に取り付けてもいいが、繊細な光学機器の癖を読み取って調子を合わせている時間は無い。

 今度暇なときにまともそうな光学機器を付けて練習をしておこう。

 今はスコープごしではなく、普通に銃に備え付けのサイトを使って狙いを定めるとしよう。

 銃には本来光学機器を使わなくても狙いを定めるためのサイトと呼ばれるものが付いている。

 拳銃の上の部分、前と後ろの両端にくっついている出っ張ったやつのことだ。

 後ろの出っ張りをリアサイトといい、前の出っ張りをフロントサイトという。

 この2つの出っ張りを合わせることで銃を標的に対して真っすぐ構えることができるというわけだ。

 遠距離狙撃にはさすがに使えないが、数メートルから数十メートルくらいの距離ならばそのサイトだけである程度の狙いを定めることができるだろう。

 ライフル銃のサイトは光学機器を付けるときに邪魔になるので折りたたまれていることが多い。

 バ〇ットのサイトはフロントもリアも折り畳み式だ。

 光学機器が付けやすいように作られた上部のレールの前後の端に四角いサイトが折りたたまれている。

 そのサイトをパチリと立て、大口を開いて火球を撃ってくるトカゲに合わせる。

 このサイズのライフルになるとリアサイトにはよくわからないメモリが付いていたりするが、使いこなせる気がしないので適当に合わせておく。

 1発撃って感覚で合わせるしかないだろう。

 どうせ的は巨大だ、多少外れてもどこかには当たる。

 逸る心を静めストロークの異様に長いボルトを引けば、冷たい金属音を響かせて12.7mmの巨大な弾が薬室に装填された。

 あとは引き金を引くだけだ。

 もし反動で銃が跳ね上がっても怪我をしないように少し横にずれた位置から手を伸ばし、引き金に触れる。

 冷たい金属の感触。

 小さな手には重たいトリガーだ。

 私はゆっくりと握力を込めて引き金を引いた。

 その瞬間身体が震えあがるような衝撃音が響き、トカゲの上あごが跳ね上がった。

 銃を抑えていた土嚢にも衝撃は伝わったようで、薄っすらとした硝煙と共に白い砂埃が上がっている。

 私は砂埃を吸わないようにハンカチを口に当てて撃たれたトカゲの様子を伺う。

 トカゲは口の両端が裂けて血が出ていた。

 少し上にずれたが、概ね狙い通り口腔内に当てることができたようだ。

 だがどうやらかなり頑丈な身体をしているようで、弾丸が貫通しなかったらしい。

 弾が当たった口の中ではなく口の両端から血を流している。

 ピクリピクリと痙攣してグロッキー状態なのでかなりのダメージを受けたと思われる。

 弾丸というのは貫通するよりも体内で止まったほうがダメージは大きいものなのだ。

 理論的なことはひろしは知らなかったが、推測することはできる。

 おそらく銃弾に込められた運動エネルギーがどこに行くのかということだろう。

 もしトカゲに当たった弾丸が身体を貫通していればトカゲの後ろ側の障害物に当たってその障害物を破壊していたかもしれない。

 トカゲを貫通したのに障害物を破壊できるということは運動エネルギーがまだ弾丸に残っているということだ。

 しかし実際には弾丸は貫通しなかったので運動エネルギーはすべてトカゲの身体に向かったということになる。

 結果、トカゲの上あごは跳ね上げられ口が裂けてしまったというわけだ。

 貫通できなかったのは驚きだが、あの巨体に血を流させることはできた。

 なかなかの威力だ。

 さて、次は巨人いってみよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る