19.反撃の準備
2本の後ろ脚でしっかりと立ち、短い前足を構えている兎。
その体躯はひいき目に見ても小型犬くらいの大きさしかない。
4本の足で地に伏せればペットショップで売っていてもおかしくないくらいに可愛らしい白兎だ。
この小さな兎があの2匹の怪物が徒党を組んで戦っていた相手だというのだから信じられないこともあるものだ。
確かに身体の小さい魔物の中にも強い魔物は存在している。
有名なところでは妖精なんかがそうだろう。
妖精は人間の手に乗るくらいに小さい種族だが、どの個体も必ず強力な魔法スキルを持っているためにとても強い。
あの兎もそういった種族の仲間なのかもしれない。
血みどろ兎とかマーダーラビットとか、そういった恐ろしい種族に違いない。
『ヴォォォッ』
『グラァゥッ』
兎の最大の武器である機動力は奪われた。
ポタリポタリとその白い毛皮から滴る血が、兎の怪我の深刻さを告げているようだ。
兎はもう跳び回れる状況ではなく、単純な攻撃力ならば2体の怪物のほうが上。
兎にとっては絶体絶命の状況だ。
なんとなく可哀そうだけど、私にとってはあの2体と渡り合う兎も怖い魔物の1匹なので助けるようなことはしない。
2対1なのは卑怯だと思うけれど、それは人間の感覚だ。
自然界では群れで得物を追い込むのは普通のことだし、卑怯という概念自体がそもそも人間の尺度に当てはめたものだ。
違う種族が共闘していたり、あの巨体では兎1匹食べたところで腹の足しにもならないのではと思わないわけでもないが、そのへんには何か事情があるのだろう。
とにかく巻き込まれたくないという想いで私は戦いを傍観した。
多腕の巨人は引き抜いた大木を野球のバットのように2本の腕で握り、兎に向かってフルスイングした。
巨人が振り抜いた巨木は傷ついた兎を真芯で捉え、ついでに地面を抉って大量の土砂を飛ばした。
見事に魔王城のほうへ。
「ちょっ、なにしてんのあのクソ巨人!」
大量の土砂は散弾のように魔王城の結界にぶつかり、ポイントを減らした。
柔らかい土が多く瞬間ダメージは30ほどで結界の破壊は気にしなくてもいい程度だったが、勢いだけは強くポイントを20以上も消費した。
そのうえあの怪物共はまだ兎がくたばっていないと考えたのか、追撃までしてきた。
巨人は兎を吹き飛ばした巨木を槍投げのように投げてきて、トカゲは口から特大の火球を放った。
私は頭を守るように抱えて蹲った。
結界があるとはいえ巨木と巨大火球がミサイルのごとくぶっ飛んでくるのだ。
恐怖で膀胱が決壊したのは仕方がないことだろう。
結界にぶち当たった巨木は轟音を立ててへし折れ、次の瞬間には火球の大爆発によって焼き尽くされた。
銃声対策としてモフモフのイヤーウォーマーをしていたおかげで鼓膜は破れなかったようだが、爆発音を間近で聞いたために耳鳴りがしている。
端末を見ると今の攻撃は瞬間ダメージ300超えだった。
中級結界でも耐えられただろうが、基本コマンドの初級結界のままだったら耐えられなかったという事実に冷や汗が止まらなくなる。
ポイントも3桁以上消費しており、継続的に攻撃をされたら特級結界でも半日と持ちこたえることはできないだろう。
あいつらは危険だ。
私はあの2匹の怪獣を狩ることを決意した。
とはいっても魔王城の兵器類は高性能なだけあって高価だ。
一番安いものでも5桁のポイントを消費するため、結界維持のためのポイントを考えると導入するのは不可能だ。
であるならば、兵器は自前で用意するしかないだろう。
私が持っている武器で一番強力なのは間違いなくBランクのバ〇ットM82だ。
あの化け物ライフルを使うことができれば、本物の化け物を倒すことだってできるかもしれない。
問題は重さと反動だ。
あの銃はひろしの世界では有名な銃だったから反動が大きいことも知っている。
実際に撃ってみる動画もひろしは見たことがあり、小柄な人は反動で必ず驚いていた。
子供である私が撃てば怪我をしてしまうかもしれないほどにあの銃の反動は大きい。
それに反動で銃身が暴れれば当たるものも当たらない。
撃つためには色々と工夫が必要だろう。
私は魔王城の管理用端末を操作し、屋根の上に兵器用の台座を設置する。
兵器は高いが台座だけなら基本コマンド並みの安さで追加することができる。
お洒落な三角屋根の上に畳1畳分ほどの無骨な台座が出現した。
そこにBランクの赤いカプセルを開け、バ〇ットを設置する。
死神の衣のように黒く塗装された大型の銃が銃口を怪物たちに向けて鎮座した。
「やっぱり重いな」
試しに持ってみるが、少ししか持ち上がらなかった。
最近は身体を鍛えているのだが、やはりまだ痩せっぽちから抜け出せていない私にはこの銃は重すぎた。
だが軽くて反動が強い銃よりはまだやりようがある。
バ〇ットはバイポッドという三脚みたいなやつを立ててこうした台の上に置いて撃つことが想定されている銃だ。
その証拠に銃床部分に左手で握るためのグリップが付いている。
こんな場所に取っ手が付いているのは携行しながら撃つことを完全に諦めているからに他ならない。
この銃はこうして安定した場所に置いて撃つための銃なのだ。
それならば工夫次第では体格の小さい私でも撃つことは可能なはずだ。
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