15.怪魚を食らう

 お湯を沸かし、こぶし大に切り分けた巨大魚の肉をさっと茹でる。

 匂いを嗅げばそんなに泥臭い匂いはしない。

 巨大魚の見た目は鮭をそのまま縦と横に20倍くらい大きくしたような感じだ。

 中身もまんま鮭のようで、オレンジ色の綺麗な身をしている。。

 鮭やマスの身の色は実際は白身で、オレンジ色なのはカニやエビなどの甲殻類を食べているからだとひろしの知識にはある。

 ということはこの巨大魚も甲殻類を食べてこの色になったのだろうか。

 このサイズの魚が食べて腹の足しになるサイズの甲殻類がこの湖にはいるのかもしれない。

 いつかなんらかの漁法でとってやろう。

 

「さて、ちょっと毒見を頼んでこよう」


 私は茹で上がったホカホカの魚の身を木皿に乗せ、魔王城を出た。

 向かうのはいつもゴブリンを狩っている庭先だ。

 そこにはゴブリン専用の餌台が置かれている。

 ここに食べ物を置いておけば馬鹿なゴブリンはすぐに寄ってくる。

 すぐ近くで見ている私にも気が付いて少し下半身の形状を変化させたりもするが、そういう奴は真っ先に銃口を向けることにしている。

 と殺されるべきゴブリンだからだ。

 まあゴブリンはロリコンなのではなく、メスであれば誰でもいいだけなんだが。

 私はいつものように餌台のうえに木皿を置き、ゴブリンが来るのを待った。

 ベンチに座って読書しながら待つと、1時間ほどで5匹ほどのゴブリンがやってきた。


「グギャ?」


「グギャグギャ」


「グギャギャギャ」


 私と魚の肉の乗った皿を指さしてなにやらグギャグギャ話し合っている様子だ。

 いつもなら私を指さした時点で死刑なのだが、今日は毒見をしてもらわなければならないので我慢する。

 どうせ結界に阻まれて私に触れることは叶わない。

 

「グギャギャ!」


「グギャーギャ!」


 5匹のうち2匹は魚の肉には食いつかず、私のほうにやってきてしまった。

 食欲よりも性欲か、サルめ。

 血走った目で結界に張り付いてこちらを見てくる2匹のゴブリン。

 キモすぎて気が付いたら引き金を引いていた。

 ヘッドショットで脳漿をぶちまける2匹のゴブリン。

 他の3匹も警戒して魚の肉どころではなくなってしまったようだ。

 仕方がなく私は他3匹も撃った。

 その後何度か同じようなことを繰り返してようやくあの巨大魚は食べても問題が無さそうだということが分かった。






 鮭はひろしの故郷北海道の名産だ。

 国産鮭の実に8割以上は北海道産というぶっちぎりの漁獲高ナンバーワンなのだ。

 鮭のちゃんちゃん焼きや石狩鍋などの鮭料理も北海道では一般的で、ひろしの魂も味噌をぶち込めとうるさいのだが私は道民ではないのでバターソテーでいかせてもらおうと思う。

 バターも道民はよく食べるか。

 まあいい、巨大な魚の切り身を一人分くらい切り分け両面に塩コショウを振っていく。

 胡椒なんてこの大陸では取れない香辛料だから本来なら私みたいな孤児が口にできるものじゃあないんだろうな。

 でもひろしの記憶を持つ私にとって胡椒は料理にとって欠かせないものという認識だ。

 そう考えるとひろしの国の国民はみんなこの国の王侯貴族より美味しい物を食べているということだから地味に凄いな。

 私が胡椒なんていう超高級品を口にできるのも間接的にはひろしの国の食文化の豊かさのおかげだ。

 ありがたや。

 ひろしの国のなんでもありの食文化に感謝の祈りを捧げながら次の工程に移る。

 次は小麦粉を振る。

 小麦粉を振って焼くのはムニエルって言うらしいが、ソテーは油なんかで焼く調理全般を言うらしいのでこれはソテーだ。

 魚をソテーするときは大体小麦粉を振るので魚に関してはソテーとムニエルは同じではないかと思うのだ。

 ただ外側をカリカリになるまで焼くポワレという調理法もあるので注意が必要だ。

 わからなかったらソテーと呼んでおけば間違いではないので私は全部ソテーと呼ぶことにしている。

 フライパンにバターを溶かし、片面ずつこんがりと焼いていく。

 両面に焼き目がついたら出来上がりだ。

 シンプルな料理だが、それだけに素材の味を見るにはちょうどいい。

 見た目も匂いもかなり美味しそうなのだが、肝心なのは味だ。

 ナイフで一口大に切り分け、箸でいただく。

 私は日本人じゃないが便利な物は使っていく主義なのだ。

 でかい素材をでかいまま料理して手元で切って刺してたまに手で食べてフィンガーボールで洗って、そんなの面倒くさすぎる。 

 一応私が生まれた国でもカトラリーの種類は色々あった気がするが、基本手づかみだった孤児の私にはナイフとフォークよりもひろしの国で使っていた箸のほうが何万倍も使いやすく感じるのだ。

 そんなわけで子供用の短い箸を上手く使い、私は巨大魚のバターソテーを口に放り込んだ。


「おお、けっこう美味しい」


 魚体が巨大な分水分も多くて大味かと思っていたが、そんなことはなくぎゅっと旨味が濃縮されている。

 肉みたいに硬くなるかとも思っていたが、そんなこともなくちゃんと魚のままで舌の上でホロリと崩れる極上の食感だ。

 淡水魚なので鮭よりも少し淡泊な味わいではあるが、その分バターとよく合う。

 引き締まった身に濃厚なバターのコクが合わさり、まったりとした味わいを醸し出している。


「でも微かに臭みがあるかも」


 飲み込んだ後に残る香りに多少の生臭さを感じた。

 ハーブ塩を使ったり、ブランデーか何かでフランベしたらよかったかもしれない。

 次に作る時には何か臭み対策をしておこう。


「うーん、80点。まあ合格かな」


 何に合格したのかはわからないが。

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