7.ショットガン
森の中は幼女が歩くには過酷な環境だ。
歩きにくいし、蛇や毒虫、魔物も多い。
一瞬で引き返したくなったが、引き返したところで変態の性奴隷になる未来が待っている。
私は泣きべそをかきながら森を進んだ。
あちこちでグギャグギャとゴブリンの鳴き声が聞こえてくる。
どうやらこのあたりはゴブリンの縄張りのようで、そこら中ゴブリンだらけだ。
私は夢中で拳銃を撃った。
「グギャっ」
「グギッ…」
「グ……」
バンバンと銃声が飛び交い、耳がキンキンする。
グ〇ック17をベ〇ッタM92に持ち替え、また撃つ。
あっという間に弾が無くなってしまった。
だが32発も撃ったおかげでゴブリンは残り2匹になっていた。
私は熊撃退スプレーを散布し、転げまわるゴブリンを鉄の剣で始末した。
生々しい感触が剣を持つ手に伝わってくる。
「オゥェロロロロ……」
朝食べたカップラーメンシーフード味が全て吐き出されてしまった。
こんなことなら何も食べるんじゃなかった。
ペットボトル入りの水を取り出して口をゆすぎ、水分を補給する。
ちょうど敵もいないので少し休憩にしよう。
私は倒木に座り、空になったマガジンに弾丸を込めていく。
グ〇ック17とベ〇ッタM92は同じ9mm×19mm弾という弾が使える。
これはひろしの世界では最も普及していると言われていた弾で、警察官や軍隊が持っている拳銃の多くはこの弾を使っている。
それだけひろしの世界では一般的な武器だということで、ガチャでもかなりの数の弾が出た。
尖った弾頭の通常弾が2000発、へこんだ弾頭のホローポイント弾が1000発くらいだ。
へこんでいる方が当たったときの威力は強いらしい。
ひろしの知識は広く浅いのでなんでかはわからない。
まあでも私がまともに扱える銃の威力が上がるというのは素直に嬉しいことだ。
拳銃というのはひろしの世界の兵士が持っている最低限の武器であり、護身用の武器みたいなものだ。
こちらの世界でいうところの短剣みたいなものなのだろう。
ゴブリン相手なら十分通用するが、これから先もっと強力な魔物を相手にするにはいささか心もとない。
ひろしの世界でも拳銃はあくまで人に対する武器であって、分厚い毛皮に身を包んだ野生動物相手には通用しないものというのが常識だった。
この森にはやたらゴブリンが多いが、奥に進めば違う魔物も当然出てくるだろう。
そのときに私が生き残るためにはどうしたらいいのか。
「やはり拳銃以外の銃を使えるようになるしかないか」
私は弾を満タンまで込めた2丁の拳銃を置き、別の銃を取り出す。
レミ〇トンM870、いわゆる散弾銃、ショットガンなどと呼ばれる銃だ。
ショットシェルというプラスチック製の薬莢を使って一度に複数個の弾丸を飛ばすことのできる銃だ。
威力が異なる数種類の弾を1丁の銃で撃つことのできる便利な銃なので狩猟用によく使われている。
鹿撃ち用のバックショットと呼ばれる大き目の散弾や、熊撃ち用のスラッグと呼ばれる1発弾ならば毛皮を持つ魔物に対しても有効なダメージを与えることができるはずだ。
しかし問題はやはり反動だ。
果たして10才女児に撃てるものなのか。
私は試しに5号のバードショットを込め、撃ってみる。
腹に響くような銃声がして、目標の枯れ木に小さな傷がたくさん入る。
けっこう当たるな。
この弾は鳥や兎なんかを撃つための弾なので反動はそこまでではなかった。
少し銃床が当たっていた肩が痛いが、のけ反るほどではない。
次はバックショットだ。
こいつは鹿を撃つための弾なので覚悟が必要だ。
弾を込めてフォアエンドを戻し、引き金を引くと轟音と共に肩に殴られたような衝撃が走る。
幼女には辛い反動だが、肩を脱臼するほどではなかった。
だが姿勢が崩れたために弾はかなり右に流れて太い枝をへし折った。
命中さえすれば毛皮を持つ魔物に対してもかなりのダメージを与えることができるだろう。
しかしこれ以上威力のある弾は無理な気がする。
レミ〇トンM870には様々なバリエーションがあり、この銃は銃身にライフリングが入ったモデルだ。
本来ならばショットシェルの中に弾丸が1発だけ入ったスラッグ弾などの弾を高速回転させながら射出するための銃なのだ。
しかしながら、ライフリングのある銃身でスラッグ弾などの弾を撃ちだすのは相当反動が強いとひろしの見ていた動画のうp主は言っていた。
これ以上の反動は本当に肩が脱臼するかもしれない。
「地道に身体でも鍛えるかな」
暗い森でひとり、私は独り言をブツブツ言いながら銃に弾を込めるのであった。
ガチャスキルが使えるようになって一番変わったことといえば、食事だろう。
ガチャで出るCランクアイテムで一番よく出るのは食料や調味料だ。
それらの物資に生死の境を彷徨ったことで得たひろしの記憶を合わせると、最強となる。
ひろしは料理はそれほど得意ではなかったが、アクティブな馬鹿だったので色々な物を食べており舌が肥えていた。
それに料理が得意ではないといっても孤児で何も知らない私よりは料理知識が豊富だ。
一人暮らしも長かったので簡単な料理くらいなら大体作ることはできた。
少なくとも今まで食べていた孤児院のドブみたいな料理よりはマシなことは確かだ。
今日のメニューは黒パンを小さく切ってカップスープの素で煮るパン粥だ。
作るのは森の中に設置したテントの中。
テントは昨日の反省を生かして木の葉っぱなどで偽装を施してある。
魔物には匂いなどでバレてしまうかもしれないが、無いよりはマシだろう。
油断せずに武器の入ったマジックバッグを抱いて寝ればきっと大丈夫。
ずっと眠らないなんて無理だし、死ぬときは起きていても死ぬ。
ひろしの見ていた映画では大体オドオドしている奴から死んでいった。
結局のところ死ぬも生きるも運次第なのだ。
ジタバタしていても仕方がないので私は森の中で堂々とキャンプ飯を食らってやる。
魔導コンロに水を入れた鍋をかけ、切ったパンとカップスープの素をぶち込んだ。
水が沸騰し、ぐつぐつと煮立ってくるといい匂いがテントの中に充満し始める。
換気扇が無いから匂いが逃げないのだ。
ニンニクたっぷりの料理とか、焼き魚とかはあまりやらないほうがよさそうだ。
そのままで食べるとアゴが噛み切れないほどに硬い黒パンが、煮込まれてトロトロになってきた。
苦味や酸味などの小麦粉の雑味が詰まった黒パンだが、こうしていい匂いのするスープで煮込めばまあまあ食べられる味になる。
ひろしの世界ではこんなに美味しいスープがお湯を入れるだけで食べられるというのだから開発した人は凄い人だ。
でも、私が知らないだけでこちらの世界にもひろしの世界にはない美味しい物とかがたくさんあるんだろうな。
どんなものがあるのか楽しみだ。
ただ孤児院や商人から逃げるだけでは、人生は何も面白くない。
ひろしは特に取り柄も無い人間だったけれど、人生を楽しむということだけは誰よりも得意な男だった。
そういうところは見習っていかないといけないな。
私はそんなことを考えながら、トロトロに溶けたパン粥を啜った。
「あつっ」
舌を火傷した。
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