6.銃の威力

 テントを出ると、私と同じくらいの体格の醜悪な魔物が4匹うろついていた。

 3匹は普通に川の水を飲んでいるようだったが、1匹はなぜか私が入った後のお風呂の残り湯を飲んでいる。

 私は迷いなく、残り湯を飲んでいたゴブリンに銃を向けた。

 上から見たら銃と構える腕が二等辺三角形になるように構えるアイソセレススタンスという構え方だ。

 右手はグリップを握り引き金に指をかけ、左手はグリップを握る右手を包み込むように添えて反動を抑える。

 拳銃の有効射程というのは意外と短いが、私と残り湯ゴクゴクゴブリンとの距離は5メートルほど。

 外れはしないだろう。

 頭は的が小さく外れやすいから心臓を狙う。

 心臓ならば外れたとしても胴体のどこかに当たる可能性が高い。

 ひろしの無駄知識もたまには役に立つ。

 私は冷静に引き金を引いた。

 反動で少し銃口が上がったが銃弾はゴブリンの喉を貫いていた。

 即死だろう。

 銃声で耳鳴りがする。

 何か対策をしなければ、撃ち続けていたらいつか難聴になりそうだ。

 海外の射撃場で銃を撃つ動画をひろしはよく見ていたのだが、大体の人は耳栓とゴーグルをしていた。

 私もああいうものを用意したほうがいいのかもしれない。

 不思議なもので1発の銃弾を放ったことで私の心は平穏を取り戻していた。

 それどころか少し高揚感を覚える。

 ゴブリンを一撃で殺す威力に酔っているのかもしれない。

 また恐怖で震えが戻ってくる前に、終わらせることにしよう。

 残りのゴブリンは3匹。

 仲間がやられたことに今頃気づき腰から粗末な武器を抜いて近づいてくるが、遅すぎる。

 私は近づいてくるゴブリンをじっくり狙って引き金を引いていった。

 パンと乾いた音がするたびにゴブリンが死ぬ。

 なんて強力な武器なんだろうか。

 これは人を狂わせる力だ。

 ひろしの国は銃刀法という法律を作って正解だったのかもしれない。

 こんなものを民間人が自由に買える国が恐ろしくて仕方がない。

 私は怯えた表情の最後の1匹を無慈悲に撃ち、その場にしゃがみ込んだ。


「はぁ、怖かった……」


 ゴブリンにしてみれば怖いのは私の方だったかもしれないが、魔物と戦ったのなんて生まれて初めてだったのだ。

 戦いというほど戦いにもならなかったけれど、もし目を覚ますのが少し遅かったらテントの中にゴブリンが入ってきていたかもしれない。

 そうなっていたらこんなに冷静に行動することはできなかっただろう。

 どれほど高級であろうとテントにセキュリティを求めるのは難しい。

 たとえ入口に鍵をかけたところで布を刃物で切り裂かれたら簡単に入ってくることができてしまうからだ。

 本来ならば護衛に囲まれているような人が安全な陣地内で使うようなものであって、こんなところでソロキャンプするためのものではないのだ。

 やはりちゃんとした拠点は必要だ。

 家を建てるのは10才女児には難しいけれど、私には魔王城がある。

 今日は少し移動して、魔王城を設置するのに良さそうな場所を探すとしよう。






 テントを仕舞い、川沿いを歩く。

 このあたりはどうやら色々な物が流れ着く場所のようで、使えそうな物も結構流れ着いている。

 いくつか嵩張らない物をカプセルからテントの中に移してあるので空のカプセルは結構ある。

 乾かせば使えそうな反物や鍋、フライパンなどを回収してカプセルの中に入れていく。

 さすがに食料は一度川に浸かったものを食べるのは抵抗があるので拾わない。

 たまに死体なんかも流れているが、ぐちゃぐちゃのグロ死体はちょっと勘弁。

 綺麗な死体は手を合わせてお金や貴金属などを貰っていく。

 イニシャル入りの指輪とか怨念が宿りそうなものは貰わない。

 そんなこんなしているうちに、川が途切れた。

 かなりの高さの滝があったのだ。

 下を覗き込むと股の間がひやっとした。

 玉はないけどヒュンッってなるのは男女共通なようだ。

 ここまで流されていなくてよかった。

 こんな滝を流れ落ちていたら命はなかっただろう。


「でも、これはちょっと下りるのは無理かな」


 滝つぼの上でうろうろとしていると、下の川原に何人かの人間がいるのが見えた。

 馬に乗った大人の男が数人だ。

 私はとっさに身を低くして隠れた。

 大人たちは川岸に流れ着いた荷物や死体などを川原に運んでいた。

 今ここに流れついている死体は、ほとんどは私と一緒に流された孤児院か売り先の商人関係者だ。

 もしかしたら、孤児院か商人の仲間だろうか。

 だとしたらなおさら見つかるわけにはいかない。

 連れ戻されたら今度こそロリコン商人の性奴隷にされてしまうだろう。

 豚のような商人にド変態プレイを強いられるなんて耐えられるわけがない。

 私は匍匐前進のまま川を離れ、森の中に逃げ込んだ。

 ゴブリンなどの魔物が跋扈する森の中にはなるべく入りたくはなかったが、背に腹は代えられない。

 マジックバッグの中からハンドガンを取り出し、セーフティを解除した。

 ゴブリンの襲撃から私は戦う力の重要性に気が付いた。

 ガチャから出たアイテムのうち、剣やナイフ、銃などの武器はまとめてこのマジックバッグの中に入れてある。

 マジックバッグは革製のウェストポーチのような小さな鞄で、中に1000リットルもの物を入れておくことができる。

 ガチャボックスに入るカプセルは確かに便利だけど、武器のようにすぐに抜き放つことが必要とされる物を入れておくのには向いていない。

 マジックバッグには容量の限界があるが、手を突っ込めばすぐに取り出すことができるというメリットがある。

 1000リットルというと多いように思えるけれど、体積にすればせいぜい1立方メートルなのだ。

 普通に物を入れるよりも武器のようにすぐに取り出す必要のある物を入れておくほうが有効的に使えるだろう。

 基本的に私は10歳女児なのでおそらく剣やナイフなどの近接武器を持ったところでそれほど戦えはしないが、一応の備えだ。

 接近された時に諦めるよりは武器でも振り回したほうが生き残れる可能性が高いと思うから。

 なるべく銃で死んでくれると助かるんだけどな。

 私はグ〇ック17を構え、鬱蒼とした森を進んでいった。

 

 

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