第18話 追放白魔道士、少女パーティーの活動を始めさせる


「……そろそろ、いいか。」


俺は、三人を倒れるまで扱いた後に、ぽつりと零す。


「……何が……ですか……?」


息も絶え絶えのエルシャが、そう聞いてくる。


「回復してからな。」


俺はそう返し、3人に疲労回復の魔法をかける。


「う〜、これ気持ちいいんだよね〜。」


「……ん、さいこう。」


「……楽になってきた〜。」


……こうかはばつぐんだ!


はっ!俺は、何を……?


「よーし、3人とも集まれ。これからの予定を発表しまーす。」


呼ぶと直ぐに俺の傍により、ちょこんと座る3人。


「そろそろ君たちには、冒険者としての活動をしてもらいます。」


「依頼を受けるってことですか?」


「そうだ。」


エルシャの問いに端的に返すと、ミュリネが嬉しそうに声を上げた。


「お〜!やっとかぁ!」


……ま、これまで鍛練しかしてなかったし、冒険者らしいことは何もさせてなかったしな。


ここに水を差すのは少し忍びないが、仕方がない。


「その前に、勉強してもらうけどな。」


はしゃいでいたミュリネが、俺の言葉を聞いてピタッと動きを止める。


「べ……べんきょう?ししょー、嘘だよね?」


「嘘……じゃない。」


俺のために希望を見いだし、その後の言葉に再度絶望するミュリネ。


それとは反対に、少しソワソワしているマティナ。


この子は、元々知識欲が強いし、勉強が好きなんだろう。


エルシャは……なんかニコニコしてる。勉強が好きなのだろうか?


「ギルドの書庫は知ってるか?」


その存在を知らないのか、首を傾げる3人。


「受付の中の階段とは別に、もう一つ階段があるだろ?あれを昇った先にあるんだが、行ったことなさそうだな。」


まぁ、そんなとこ行く暇もなかっただろうしな。


たまに作ってた休みの日も、俺が何も言わなかったら訓練所に来てたからな。


休めっつってんだ。何普通に鍛えようとしてんだよ、アホか。


まぁ、今んとこ収入もないし、遊ぶのは難しいのかもな。


俺が金を渡しても、遠慮して使わねぇし。


「書庫の中では、冒険者に必要な知識を学べる。魔物や植物、鉱物などの図鑑類が置いてあるんだ。君らには、それを全部覚えてもらう。」


「ぜ……全部……っ!?」


ミュリネの言葉に、俺はこう返す。


「全部覚えねぇと、貴重なものをゴミ扱いしちまうかもしれんだろ。」


「それは……そうだけどぉ……。」


そんなに勉強が嫌か、ミュリネよ。


……仕方ない。


「ミュリネ、全部覚えれたらBランク以上の黒魔道士の必須技術を教えてやる。本当はもう少し先に教える予定だったが、どうだ?」


「Bランク……必須……。やる!」


フィーシュッ!


これで3人とも頑張ってくれるだろ。ミュリネ以外のふたりは、元々乗り気だったみたいだし。


「それと、討伐証明部位と希少部位を知ってる魔物討伐の依頼なら受けていいぞ。Fランクまでならな。」


この言葉に、余程やる気を刺激されたのか、ミュリネが2人を引っ張って書庫に向かっていった。


「早く行くよ!依頼があたしを待ってる!」


「ちょ、ちょっとミュリネちゃん。落ち着いて〜!」


「そんなに急ぐ必要はないでしょ……。」


……何はともあれ、やる気を出してくれたようでよかったよ。





それからは、三人は、勉強の日と依頼の日を交互に繰り返し、着実に知識を蓄え、経験を積んで行った。


「リカバー草は、根っこの部分の効果が1番高くて、毒草のベネノ草と似ているから注意。見分ける方法は、根元の髭の有無。」


「ゴブリンの討伐証明部位は、右耳。希少部位はなし。ワイルドウルフの討伐証明部位は、尻尾。希少部位は目で、錬金水の中で保管しなければ、状態が悪くなる。」


そんな感じで、三人で協力して勉強していたよ。


ミュリネは、余程勉強が嫌いなのか、すぐに討伐依頼を受けに行こうとするが2人に阻まれ、泣く泣く勉強を続けていた。


それでも、きっちりと全部を覚えきったのは、御褒美の存在が大きいのだろう。


なんせ、勉強に行く前に、何度も俺に確認してきたくらいだからな。


「ホントに教えてくれるんだよね?」


「ちゃんと教えてよ?」


「ししょー、御褒美忘れちゃダメだからね?」


そんなことを聞いてくるミュリネに返す俺の言葉は、いつも同じだった。


「おう、ちゃんと全部覚えたらな。」


2人が着いているから、一人でやるよりは楽になっているだろうし、嘘も言えない。


きっとしっかりと覚えてくれるはずだ。


そうそう、勉強を始める前に、パーティー名が決まっているのかを聞いたんだ。


「三人でパーティー組むつもりだろ?パーティー名は決めてんのか?」


って、そしたら、やっぱりちゃんと考えててさ。


夜寝る前に、三人でよく話していたらしい。


鍛錬の後は疲れているだろうに、そんなことをしていたのかと少し呆れたが、この子達らしいとも思った。


肝心のパーティー名だが……


「私達のパーティー名は【ウェントス】です。」


ウェントスというのは、いつだかの迷い人が伝承した風を意味する言葉らしい。


自由に冒険者をしたいから、自由な風を名前にしたんだとか。


なかなか、いい名前だと思うよ。


まだまだ教えることはあるが、それでもひとつの区切りは着いた。


ここからは、俺が教えることよりも、自分たちで何かを学ぶことも増えてくるだろう。


だが、俺たちの関係は変わらない。


俺は教育係で、彼女たちを導くのが仕事だ。


「最後まで、きちんと導いてやるさ。」


俺は、煙草に火をつけ未来さきを見すえる。


叶うのなら、何処までも自由に、好きなように生きてくれ。


何かに縛られる人生など、送る必要は無い。


俺は、教育係として、そして先輩として、彼女たちをずっと応援しよう。


そして、どうしようもない理不尽からは守ってやろう。


それが教育係おれの仕事だからな。

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