第17話 追放白魔道士、尊敬を形にされる
「……俺の呼び方ァ?」
とある日の鍛練の終わり。
俺は、3人に呼び止められ相談を受けた。
「は、はい。い、今更ですけど、なんて呼べばいいのかなって。」
「今まではローワンさんって呼んでたけど、他人行儀じゃん?」
「それに、教えを乞ている私達は、貴方に敬意を払うべきだとも思うんです。」
「いや、まぁ好きに呼んでくれていいけどさ。別に、今まで通りでもいいよ?無理に変えなくてもさ。」
実際、呼び方なんてなんの意味もないしな。
俺の事をなんと呼ぼうが、俺がこの三人の教育係であることに違いはないし、この3人との関係も変わるわけじゃない。
「い、いえ、やっぱりそういう所はきちんとするべきだと思うんです。」
「そーそー、立場は明確にしないとだよ?」
「無理はしていないので……。」
はぁ、そうですか。
それにしてもなんでいきなり?
もう一月は一緒にいるけど、そんな素振り見せなかったじゃん。
今までは、ただのおっさんだと思ってたってことですか。そうですか。
「……なんで急にそんな事言い出したの?」
「え、えと、それは……ですね……。」
「………………。」
「いや〜、だってさ。急に出てきたおっさんを、信用出来るわけないじゃん?」
……ごもっともで。
そりゃ、新人からすればギルマスなんて、偉いと言われてるおっさんでしかなくて。
そんなおっさんが紹介したおっさんが、信頼に値するわけもないと。
あっはっはっはっはっ……はぁ。
「ちょ、ちょっと、ミュリネちゃん!」
「……もうちょっとあるでしょ、言い方とか……!」
「隠したって意味ないじゃんか。それに、こんなことで怒る人じゃないでしょ。」
「それは……そうだけどぉ……っ!」
「失礼だって話よ……!」
「あー、やめてやれ。そんな怒ってやるな。ミュリネは正しい。」
実際、
もっともなんだけど、おじさんちょっと悲しい。
「とにかく、この1ヶ月で、ローワンさんが信用できるって思ったから。だから、今更だけどちゃんとしとこってこと。」
「あー、うん。よくわかった。……それは、3人全員が……てことでいいの?」
三人はこくりと頷く。
「は、はい。魔法だけじゃなくて、武器を使っても強くて、教え方もすごく上手いから、えと、その。すごい、尊敬してます……っ!」
「説明が全部理論的だし、私たちの疑問も納得できるまで噛み砕いて教えてくれるし。いい人だしっ!」
「感覚的ものまで言語化してくれるから、わかりやすいです。一つ一つの行動に複数の意味があって、常に数手先を見据えていて凄いです。私の目指す場所だと思ってます。」
………………あ〜、すっっっっごい恥ずかしい!
やばい、なにこれ!?新手の拷問!?
背中がムズムズする!
こう、なんて言うかこう、無理!まじで無理!
恥ずか死ぬ。
辞めてくれ。おっさんにはもう、少女のキラキラした瞳は特攻なんだよ。
憧れとか理想とか言われていい年齢じゃないの!
……フー、フー……。
…………何とか、落ち着いた。
「あー、うんわかった。君らの気持ちはすごいわかった。超わかった。だからもうやめて。いやマジで。」
「は、はい。……えと、それでなんて呼べばいいでしょうか?」
「はいはーい!ししょーって呼んでいい!?」
エルシャの問いかけの途中で、ミュリネが割り込んでくる。
「……好きに呼んでいいよ。俺からは何も強制しない。」
「わかった。じゃあ、今日からししょーって呼ぶ。」
……好きにしてくれ……。
「じゃ、じゃあ私は先生って、呼んでもいいですか?」
「……私も、先生が良い。」
「うん、もうそれでいいよ。」
……好きにしてくれ……(死んだ魚の目)。
あぁ、今日も煙草が上手いなぁ(現実逃避)。
……そろそろ、この子らの活動をさせる予定だし、タイミングは良かったかな。
「……じゃ、俺からも一つお願いだ。俺が今から言うことを、覚えておいて欲しい。」
「覚えておいて欲しいこと?」
エルシャが、俺の言葉を繰り返す。
「あぁ、冒険者には必須と言っていい。」
「冒険者に、必須……。」
ミュリネが、唾を飲み込む。
「……それは……?」
マティナが、逸り聞いてくる。
「敬語だ。冒険者が敬語を使うことはまず無い。公的な場での権力者の前くらいのもんだ。敬語を話す奴は、舐められるからな。」
ま、ある程度ランクが上のやつらはむしろ、礼節を重んじるのも多いけど。
「敬語で話すことを悪いとは言わないが、出来ればタメ口の方がいい。出来ればでいいから、無理はしなくていいぞ?……特にエルシャは。」
「は、はい!…………良かったぁ。」
……隠しているつもりなんだろうか。
「……普段から、タメ口で話すことを意識した方がいい。使い分けられるなら、それでもいいしな。とりあえず、ミュリネとマティナは暫く俺に敬語禁止な。エルシャは、……まぁ頑張れ。」
「確かに、エルシャはタメ口とか無理そうだもんな〜。」
「ん、エルシャは優しいから。……人見知りだし。」
「しょ、しょうがないじゃん。無理なものは無理だよ……。」
キャッキャと、言い合いをしている3人。
……君らの仲が良好なようで良かったよ。
今までは距離があったし、3人の関係を詳しく知ることは無かったからな。
問題なさそうで一安心だ。
全員が女の子だから、面倒臭いことにもなりにくいしな。
そういえば、
俺がパーティーを脱退してから、数回しか会っていない。
ま、あいつらなら大事か。俺が心配することでもねぇな。
「それじゃ、また明日!ししょー!」
「ま、また明日、です。先生。」
「先生、明日もよろしく。」
「……おう、気をつけて帰れよ。」
今は、この子達の成長をただ、眺めていよう。
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