第16話 追放白魔道士、講義を始める


「……も、無理。走れな……い。」


「あ……あたしも、限界……。」


「……むり……。」


模擬戦の結果、一発当てるどころか、一歩も動かずに対処し切りました。


そりゃ初めての魔法戦闘だからね。魔法使いながら、近接なんて初心者が出来るわけないよね。


そんなわけで、最初に前衛のマティナが潰れ、後衛の2人が次に潰れた。


ランニングと魔力操作を並行して、訓練させていたおかげで、思ったよりは動けていたが、せいぜいがDランク程度だな。


近接だけでやってた方が、脅威だな。今はまだ。


まだ、鍛え始めて一ヶ月も経っていないことを考えれば、上出来……どころか、驚異的ですらある。


……一週間ぐらいで最適化しそうだな、こいつら。


近接のことを考えれば、俺の予想は当てにならんけど。


さて、3人とも息が整ったみたいだし、魔法の講義でもするか。


「よーし、お前らちゅうもーく。」


その言葉に反応し、辛そうにしながらもこちらをむく3人。


「これから、パーティー戦闘での魔法の使い方を教えます。」


一気に目に活力が戻る3人の少女。


おうおう、わっかりやすいなお前ら。隠せ隠せ、ポーカーフェイスは必須技能だぞ?


「まず、ミュリネ。黒魔道士は、パーティー内ではどんな役割を担う?」


「え……っと、基本はフィニッシャーだよね?あとは、呪いとかのデバフとか、単発の魔法での牽制とか?」


アホっぽいのに、ちゃんと考えてんだよなぁ、ミュリネって。適当に当てたのに、ちゃんと答えが返ってきた。


「そうだな。確かに、火力の高い黒魔道士は、パーティー内ではフィニッシャー、ラストアタックを担うことが多い。デバフについても、白魔法には無い以上これも担当することが多いな。」


じゃ、次だ。


「では、黒魔道士に求められる魔法は、威力が高く発動時間が長い魔法か?」


「ん〜、状況によるかな。他にも黒魔道士がいるなら、片方は手数で戦ってもいいし……。」


「その通り。戦闘中に、溜めが長い魔法は使いづらい。黒魔道士が複数いるなら、ミュリネが言ったような方法をとってもいい。が、黒魔道士が一人の場合、ヘイトの管理も重要になる。下手に強い威力の魔法を使って、狙われるってのは後衛にとっては最悪だ。気をつけろよ。」


「はーい!」


元気ね、この子。


次は白魔道士についてだな。


「エルシャ、白魔道士はパーティー内では、何をするべきだ?」


「えと、味方の回復と付与エンチャント、です。」


付与、攻撃に属性を乗せたり、或いは防御力を上げたり、そういった仲間の支援をするものだ。


「正解だ。白魔法にも、攻撃魔法が無いわけではないが、基本はその二つだな。あとは、パーティーの司令塔は、後衛の白魔道士が担うことが多い。何故かわかるか?」


「えっと、やることが少ないから……ですか?」


……まぁ、間違ってはいないか。


「そうだ。白魔道士は、使う魔法の都合上、味方が万全の状態では付与以外にやることがない。つまり、それだけ周りを見ることができるというわけだ。だから、司令塔のポジションに白魔道士が多い。」


最後は、マティナだな。


「マティナ、赤魔道士、つまりは前衛はどんな魔法を使うべきだ?」


「……溜めが短い魔法です。」


あってるんだけど……


「具体的には?」


「初級の攻撃魔法とか、です。」


ま、いいか。


「一応正解。だけど、赤魔道士は攻撃だけじゃなく搦手も上手い。例えば、相手の攻撃のタイミングに、初級魔法の《泥沼》、足元を泥濘に変化させる魔法で足を取ったりな。」


最小限の労力で、敵の動きを封じるには、搦手が最適って言うのもある。


上に行けば行くほど、赤魔道士の戦術はいやらしくなっていく。


…………本気で戦いたくねぇ。高ランクの赤魔道士とは。


「……なるほど。」


みんな真面目で、おじさん困るよ。もう話すことあんま無いんだけど。


あとは、魔法の可能性ぐらいか?


「お前ら、魔法で遊んだりしてる?」


「魔法で……」


「……遊ぶ?」


「……?」


この様子じゃ、なんもしてねぇみたいだな。


「じゃ、ちょっと見とけ。」


そう言って俺は、初級魔法の《火種》を発動する。


「これは、誰もが最初に覚える魔法、生活魔法と呼ばれ親しまれているもののひとつ、火種だ。」


人さし指を伸ばした先に、小さな火が灯る。


これは、その名の通り火種として使われる魔法で、難易度もとてつもなく低く、5歳の子供でも発動できる魔法だ。


一家に一つは魔法陣が置いてあると言われるほどに、慣れ親しまれている魔法だが……。


「魔法は、術者のイメージにより威力や効力が変わる。これは、殆どの人が知っている事実だ。が、ここから先は、あまり知られていない。」


俺は話を続けながら、指先の火に


「発動後の魔法に、さらに魔力を注ぎ込むことで、ある程度その魔法を変化させることが出来る。」


指先に点っていた微かな火が、蠢き形を変え、を象る。


その蝶は、俺の指先から大空へと向かって飛んで行った。


俺は絶句している3人に向かって、言葉を続ける。


「魔法は、自由だ。型に嵌るな。己のイメージを具現化させろ。魔法なら、それが出来る。」


俺の言葉に、三人は目を輝かせていた……。

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