第15話 追放白魔道士、詠唱を語る
魔導書を三人に渡した翌日。
エルシャから、とある質問をされた。
「なんで、魔導書に詠唱文が書かれているんですか?」
本来、魔法とは想像の力であり、事象とつかう魔法の魔法陣を思い浮かべることで、発動できるものだ。
つまり、魔法発動のプロセスには、詠唱など
では、なぜ魔法を覚えるために魔法使いの全員が見る必要のある魔導書に、詠唱文が書かれているのだろうか。
「大きな理由は、二つだ。」
咥え煙草をしながら、俺は話し始める。
「1つは、魔力操作の覚束無い未熟者に対する救済措置。」
先程、魔法の発動方法は魔法陣と事象の想像だと言ったが、それはある程度魔力操作に熟練していることが前提条件なのだ。
熟練、と言ってもどんなに才能がない者であろうと、一年も鍛えれば問題なく発動できる程度のものだ。
しかし、例えば冒険者は、学がないものが多く、鍛練を嫌うような輩も多い。
満足に魔法を発動できないような者ばかりなのだ。
そんな奴らのための救済措置、というのが一つ目の理由。
「んで、2つ目だが、これは威力の底上げのため、或いは精度の補強なんかがあげられるな。」
本来の目的は、寧ろこっちだ。1つ目の理由は、偶然の産物に過ぎないからな。
そもそも、魔法も満足に発動できないものなど、厄介者以外のなんでもなく、そんな奴らのために詠唱を作ってやるほど、世の中は甘くない。
本来の、威力や精度の補強をするための力が、未熟な魔力操作技術によって、魔法発動の補助に置き換わって閉まっているのだ。
……話が逸れた。
2つ目の理由に話を戻すとしよう。
まず、魔法には許容魔力量というものが存在し、その魔法の発動に込められる魔力の量を表すのだが、詠唱によってこの量を増やすことが出来るのだ。
本来、魔力を注げるのは頭の中に想像した、魔法陣のみ。魔法の威力を高めるためには、より鮮明な事象のイメージのみに、頼らなければならない。
そこに登場したのが、詠唱だ。
この詠唱には、ある特殊な言語が使われており、その言語が持つ力は魔法陣のものと同種と言われている。
つまり、魔法陣を脳裏に浮かべながら、詠唱文を唱えることで、魔力を注ぎ込むことが出来る対象が増え、その結果威力や効力、精度の上昇に繋がっているのだ。
…………ということを、懇切丁寧に、噛み砕いて説明したのだが……
「……んぅ?」
「な、なるほど。」
「そんな理由があったのね。」
若干1名には理解できなかったらしい。
…………俺ってば、説明下手?
「ま、今は詠唱は覚えなくてもいい。使うタイミングとかムズいし、
知識が足らん馬鹿共は、詠唱するやつ全員魔法が撃てないカスみたいに言ってくるからな。
俺みたいなおっさんなら、適当に流せるし、なんなら実力でも負けねぇからどうとでもできるが……。
「……どういうこと?ねぇどういうこと?」
「え、えっとね、えーと……。マ、マティナちゃん、なんて説明したらいいの〜!?」
「私に振らないでよ……。」
まだまだ発展途上の子供には、ああいうタチの悪い奴らは、ちと不味い。
ああいう奴らは、それなりに実力がある阿呆だから、ようやく魔法を使い始めたヒヨっ子よりは、強い……。
それがまた厄介なポイントでもあるんだけど……。
ま、暫くはそういうのは俺が対処すればいいか。そういうのは、1人前になってからでも、遅くない。
「よーし、今日からは午前も午後も、魔法アリの模擬戦にしまーす。」
俺は使わねぇけど。
午前のランニングから開放されるからか、3人は安堵の表情を浮かべるが……甘いぞ?
「一発も俺に当てれなかったら、次の日はランニングから始めまーす。」
「……えっ?」
「そ、そんな……。」
「……無慈悲。」
…………いい
冗談は置いておいて。
まだまだ、体力作りを終わらせてやる気はない。
理想は身体強化等の技能込みで、数日戦い続けられるぐらいの体力はつけておきたい。
まぁ、俺は1人前にするのが目的なんで、ある程度で切り上げるから、最終的に三人が自力で辿り着くべき場所ってぐらいの認識だけど。
Sランクになるなら、いやBで留まるにしても、強者と相対することもあるだろう。
そんな時、どれだけ持ちこたえられるか、どれだけ耐えられるかは、本人の体力に直結する。
冒険者にとって、最も必要な能力は戦闘力ではない。
生き残る力、それこそが冒険者に最も必要な能力だ。
突発的に起こる戦闘。そこに、格上が含まれないなんて考えられない。
同格との戦い。それは、どちらが先に崩れるか、即ち総体力の比べ合い。死ぬのは、より自分を甘やかした方だ。
様々な理由で起こり得る、
常に緊張を強いられる、護衛依頼。
何日にも渡る、対象の捜索や、張り込み。
体力を使わない冒険者の仕事なんて存在しない。
体力のない冒険者は、真っ先に死んでいく。
そこに気づけないのなら、この子達はランクをあげられない。
どれだけ才能があろうとも。どんなに強さに貪欲でも。どれほど鍛練を重ねても。
……道は示している。その道を歩くかどうかを決めるのは、この子達自身だ。
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