第14話 追放白魔道士、魔導書を渡す


五体のゴーレムを、彼女たちが下した数日後、俺は彼女たちに休日を与え、俺自身も街へと繰り出していた。


「あいつのところに顔出すのは、久しぶりだな。」


煙草の煙を吐きながら、俺はある店へと歩を進める。


歩き始めて、十数分後、俺の前には寂れた店の前へたっていた。


看板には、「エヴァル書店」と、擦れた字で書かれてある。


俺はそこの扉を無造作に開き、


「エヴァル、いるかぁ。」


と声をかける。


この店は、俺がこの街に来た時からの友人である、ドワーフのおっさんがやっている。


名をエヴァルと言い、ドワーフとしては珍しい魔法の研究者だ。


なぜ研究者が、本屋をやっているのか?


それは俺も知らない。ただ、子供が魔法を使えた、とはしゃいでいる姿を柔らかい笑顔で見ていたので、多分そういうことなんだろう。


「ん?なんじゃ、ローワンか。珍しいな、お前がここに来るのは。」


「用がないのに、立ち寄る気にはなれなくてね。」


「ならば、今日はなんの用じゃ?」


「白と黒の魔術師用の魔導書を買いに来た。それだけじゃないけど。」


俺がそう言うと、エヴァルは怪訝そうに眉を寄せた。


「お前さん、今更そんなもん何に使うんじゃ?じゃろう?」


まぁ、そうなるよな。


魔導書は、魔法陣が描かれた書籍のことで、黒魔術が覚えられる魔法を書かれたもの、白魔術が覚えられる魔法を描かれたものなど、幾多も種類があり、既に覚えている俺にとっては、無用の長物だ。


……説明、しなきゃ、駄目ですか、そうですか。


「ギルマスに教育係を押し付けられてな。」


それだけで、察したのかエヴァルは笑いながらも魔導書を探し始めた。


「彼奴もなかなかやるのぅ。お前さんが教育係とはな。じゃが、お前さんをつけられたパーティーは幸運じゃな。……ほれ、これじゃな。」


言いながら、俺に二つの魔導書を渡してくるエヴァル。


俺は苦笑しつつ、言葉を返す。


「毎日、鬼とか悪魔とか言われてるよ。」


「そりゃそうじゃろ。お前さん、やるとなったらとことんやるからの。それでも、あの【無貌】に師事できるなら、安いもんじゃろ。」


……そうでも無いと思うけどな。


「てか、その二つ名誰が着けたんだよ。すげぇ恥ずかしいんだけど……。」


「さぁのう、二つ名はギルドで決められるからの。案外ギルマスやもしれんぞ?」


「けっけっけ、もしそうなら八つ裂きにしてやるよ。」


いやまじで、ほんとにそうだったら、あいつは殺す。


「最強のBランク冒険者様は怖いのう。」


自分も、昔は凄腕冒険者の癖してよく言うよ。


「……それより、あれ、あるか?」


俺がそう尋ねると、それまでの飄々とした態度を崩しだエヴァルは答える。


「どうにか、取り寄せれたわい。……お前さん、これをどうするきじゃ?まさかとは言わんが……。」


おっと、バレてんのかい。


「そのまさかだよ。あの子らに覚えさせるのさ。」


俺のその言葉に、呆れたような目を向けてくるエヴァル。


「そんな高価なもんを、惜しげも無く教え子に渡すとはの。……お前さんがいいならいいのじゃが。」


理解があるやつでよかったよ、ほんと。


これを、新人に渡すなんて言えば、大抵のやつは売ってくれないだろうに。


そう思いながら、代金を払う。


「……それより、お主、何故ここに魔導書を買いに?自分で作れるじゃろ?」


作れはするし、下手なものよりは質も高くなるけど……


「ここのよりは、質が悪くなるし。それに……これを取り寄せてもらうのに、随分苦労かけたみたいだしな。」


そう言って、先程渡されたモノを掲げる俺に、苦笑で返すエヴァル。


「全く、お人好しめ。」


「そりゃ、お互い様だろ?」


俺達は笑いあい、俺は店を出る。


「さて、これで準備は終わりだな。」


煙草をふかし、俺は帰路に着いた。





翌日、俺は早速昨日買った魔導書を3人に、渡す。


「今日は朝の走り込みの代わりに、これを覚えてもらう。」


「これって……。」


「魔導書?」


「い、いいんですか?」


「いいんです。ミュリネは黒魔法、エルシャは白魔法、マティナは両方習得しとけ。それと……、」


俺は更に、新たなを出した。


「これを、3人とも覚えとけ。」


「こ、これって……!?」


「えっ!?もしかして……!?」


「これは……ッ!?」


「お察しの通り、白、黒どちらにも属さない、特異魔法。その中でも、極めて珍しいの魔導書だ。」


「そんな……ッ!?」


「一冊でお城が建つっていう、あの!?」


「ほ、本当ですかっ!?」


いや〜、なかなか高い買い物だった。


久しぶりに貯金が減ったぜ。まだ半分ぐらいは残ってるけど。


「こ、こんな高価なもの、受け取れません!」


「そ、そうだよ!私たち新人だし!」


「返せる額じゃない……です。」


「受け取っとけ、俺はもう覚えてるし要らねぇから。返されても、使い道もねぇしどっかに捨てるだけだ。」


使い回しは確かにできるが、そもそもこの魔導書を買い取れるやつなどそうそういない。


そうなると、二束三文で売っぱらうか、俺の部屋のどこかに埋まるだけだ。


なら、使ってもらった方が、いいだろ?


と、なんとか3人に使って貰えるように口を尽くした。


「じゃ、今日はその魔導書の魔法覚えることに使うぞ。」


今日の鍛錬が、始まった。


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