第13話 追放白魔道士、予想が外れる


俺が教育係を引き受けてから、早2週間。


既に、3人の少女は型を覚え、俺との模擬戦に興じていた。


「マティナは真ん中、ミュリネは私と左右で挟んで。」


「わ、わかった。」


「了解。」


エルシャとミュリネが左右に分かれ、真ん中からマティナが突っ込んでくる。


マティナはなんの躊躇もなく、刀を振り下ろす。


俺はその振り下ろしを、で逸らす。


その隙に、エルシャとミュリネが挟撃を仕掛ける。右からはエルシャのダガーが、左からは、ミュリネのマンゴーシュが迫ってくる。


こちらにも、躊躇いの色は欠片もみられない。


マンゴーシュによる突きを、左手に持ったのガードで受け止め、ダガーの横薙ぎを右手に持ったダガーで受け流す。


その場で硬直する3人に、俺はさらに攻撃を加える。


最初に、受け止めたマンゴーシュを、ガードを使って引き寄せ体制を崩させた後に、体を回し蹴りを入れる。


その後、受け流され体勢を崩していたエルシャのダガーに、ダガーを当て吹き飛ばす。


ミュリネが吹き飛ばされたあと、直ぐに切り替えていたマティナが後ろに下がろうとしたので、その後ろに回り込み、足払いをかける。


倒れる途中に、マティナの腕を掴み、地面に拘束する。


「……終わりだな。」


「……はい。」


弱弱しく、自身の負けを認めるマティナ。


この様子を見るに、本気で俺に勝つつもりだったのだろう。


Bランク冒険者である俺に、つい最近ギルドに登録した新人が。


…………最高じゃねぇの、こいつ。


「あーっ!また負けたァァ!」


……まぁ、それはこっちもか。


「……まだ甘かった。実力差は明白なんだから、もっと……いやでも……それなら……。」


こっちはこっちで、怖ぇな。


「ていうか、おっさんのやっぱ反則だろっ!武器コロコロ帰るとかさっ!」


えー、ちゃんと君らの武器でやったんだしいーじゃん。おじさんだって、なんも考えずに武器変えてるわけじゃないんだよ?


今までの模擬戦でも、同じ武器使ったことないでしょ?……そういうことだよ。


君らが使ってる武器だったでしょうが。色んな武器との対戦経験は、持っておくに超したことはないでしょ?」


「それは……そうだけどさ……。いやそれでもやっぱ反則!あんなん対処しようがないじゃん!」


お子ちゃまはどうやら不満らしい。それだけ本気で勝ちに来てるって考えれば、嬉しいものはあるけどね。


「ま、それはそれとして。言ってたとおり、俺との模擬戦は今日で最後だ。明日からは、パーティー戦をするぞ。」


ゴーレムだけどね。


「む〜、結局一回も勝てなかった。」


「……それどころか、一発も当てられなかったわ。」


「こ、こうも簡単にあしらわれちゃったら、じ、自信なくしちゃう……よね。」


「俺も現役のBランクだからな。流石に新人に負ける訳には行かんよ。」


口にくわえた煙草を吸いながら、話す。


「ま、間違いなく強くなってるよ。」


Cランクでも下位なら勝てる位には。


……若干1名調子乗りそうだから言わないけど。


「そ、そうですよね。」


「うん、前よりは動けてる気がするしね。」


「……刀の扱いも、慣れてきた。」


魔力操作も伸びてきてるし、隠密も動かなければ維持できるんじゃねぇかな。実践では使えねぇけど。


課題だった体力もついて、下手なベテランよりも動き続けられるしな。


…………俺も、色々準備しとくか。


初依頼までは、結構近そうだ。


なんせ一ヶ月かかると思っていた型を、1週間と少しで終わらせちまったからな、こいつら。


ほんと、努力する天才って厄介だわ。こっちの身が持たねぇよ。





日が変わり、今日は初めてのパーティー戦だ。


俺とは三対一だったし、最初は同数でやろうかな。どんどんゴーレムの数増やしてくのもいいな。


格上との戦闘は、俺でもう済ましてるし、格下か同格との戦い方を教える感じでやろうか。


自動オートのゴーレムなら、いい感じの敵になってくれるだろ。


俺とばかりやって、変な癖が着くのはまずいし、手動マニュアルはなしかな。


「よし、準備できたな。じゃ、始め。」


3人の準備が整ったようなので、ゴーレムに命令を下す。


――――目の前の3人を排除せよ――――


稼働した五体のゴーレムと、3人の少女との戦いが、始まった。


彼女たちにとっては、これが初めての対多数戦だ。どうなるかな……?


実力的には格下だが、その力は脅威だ。彼女たちはどう対処するのだろうか?


…………なんて考えていたのだが、今、俺の目の前には倒れ伏す五体のゴーレムと、余裕の表情で立つ3人の少女の姿があった。


……嘘やん、どないなっとんねん。


え?ちょっとこれはヤバない?なんでそんな余裕で勝ててんの?対多数初めてやろ?


……動揺しすぎで、口調がおかしなことになったな。


それにしても、ここまでとは思っていなかった。


いや、対多数のやり方を理解すればこうなるとは思っていたが、まさか初戦でこんなことになるとは思わなかった。


マティナが、五体の注意をひきつけ、その後ろから2人が強襲。急所を狙い打つことで、消耗を最小限にしつつ、倒すまでの時間を短縮した。


言ってしまえば、簡単なことではある。


だが、俺との戦闘しかしていない彼女たちは、多数に囲まれた時の対処法など、知らなかったはずだ。


経験も知識も、何も無い状況でそれをやり、あまつさえひとつのミスも起こさなかった。


きっと、エルシャとミュリネが魔法を使うことなっても、このフォーメーションは変わらない。


恐らくだが、3人でずっとシミュレーションしていたのだろう。いつか来る、こんな戦いに備えて。


ああ、改めて……怪物。俺なんか目じゃない。数年もすれば、追い抜かれるかもしれない。


それどころか、俺の技術、その全てを覚え、昇華する可能性すらある。


ぶるっ


ふ、ふふ、こいつらは、俺が思っていた以上の、天才バケモノだ。

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