第12話 追放白魔道士、近接戦の心得を説く


さて、切り替えて武器術を教えましょうかね。


「3人とも、昨日渡した武器は持ってきてるな。」


そういうと三人は武器を取り出し、俺の方へ突き出す。


「も、もちろん、です。」


「持ってきてるよ。」


「……勿論。」


マティナは、刀を。


ミュリネは、マンゴーシュを。


エルシャは、ダガーを。


それぞれ持っている。


俺は、ゴーレム創造の魔法を使い、三人の横につかせる。


「取り敢えず、そいつらの動きを真似てみろ。変なところは、俺が随時指摘してくから。」


……手抜きじゃないぞ?ほんとほんと。一人一人教えてたら、時間がかかって待ち時間とかできちゃうから、仕方なくだよ。


「「「はい」」」


3人は素直に、俺の指示に従い武器を振るい始める。


三人がある程度、型を覚えてきたところで少しづつ、問題点を指摘していく。



「マティナ、踏み込みはあと半歩前だ。胸張って、気持ち大股で踏み込め。」



「ミュリネ、エルシャ。前屈みになりすぎるな。腰は落として、重心はもう少し後ろだ。攻めより守りを意識しろ。それはあくまで時間稼ぎだ。」



「マティナ、ちゃんと刃を立てろ。刀は、斬り方を間違えれば威力は大幅に落ちる。接地面に対し垂直になるように振れ。」



「ミュリネ、大振りになりすぎだ。威力はでかくなるが、隙もでかくなる。短剣は手数の武器だぞ。武器の特性を考えろ。」



「エルシャは腰が引けすぎだ。もっと腰入れろ。そのままじゃ武器を弾かれた終わりだ。」



「ミュリネ、突きは全身のバネを使え。全身を引き絞り、解放するイメージだ。」



「エルシャ、体の捻りを武器に伝えろ。全身の力を腕に集中させるんだ。」



「マティナ、息を止めるな。常に呼吸を意識しろ。」



…………………………。




「よし、今日はこんなもんにしとこうか。」


地面に倒れ伏す三人にもそう声をかける。


「「「……あ、ありがとう……ございました……。」」」


まさに死屍累々、という言葉が似合うような有様になっている。


「明日も今日と同じメニューだ。型に問題がなくなったら、次は対人を行う。」


この様子だと、一ヶ月程だろうか。


改めて思う、この子達はとんでもない才能を持っていると。


1度言われたことを忠実にこなし、それ以降同じミスは起こさない。


運動が苦手なハズの、エルシャですらだ。


マティナなんか、俺が言ったことから自分で様々な問題を発見して修正していた。


ほんと、化け物染た才覚だよ。おじさん嫌になっちゃう。


「じゃあ明日も同じ時間に、ギルドに集合だ。それじゃあ、解散。」


「「「おつかれ……さまでした……。」」」


…………ちょっとばかしやりすぎたと思わないでもないが、仕方ないんだよ。


成長スピードがバグってて、なんか楽しくなっちゃったんだもん。


紫煙を吐きながら、訓練所を出て、いつもとは違い近くの階段を登る。


階段を登りきり、そのまま真っ直ぐに進み突き当たりのドアを開ける。


「来たか。」


そこには、既に準備を済ましたギルマスが座っていた。


「あの子たちのことか?」


俺が淡白にそう問いかけると、ギルマスは神妙に頷き答えた。


「ああ。お前なら心配いらないとは思うが、このギルドの運営に携わるものとして、未来を担う金の卵のことは知っておきたくてな。」


……Sランクになれるとまで言っていたしな。経過を知りたいってのも、当然と言えば当然か。


「なんの問題もねぇよ。順調だ、順調過ぎると言ってもいい。」


あの子らの成長は、どこまでも順調で、どこまでもだ。


「つまり?」


「とんでもない才能だって言ってんだよ。ありゃ、そう時間も経たずに駆け上がるぞ。」


今朝までは、全くの素人だった彼女たちだが、今ならゴブリン程度なら、安定して討伐できるだろう。


「……お前が、そこまで言うのか。」


「俺だからこそだよ。」


Bランクになる過程で、いや冒険者になってから、色んな奴と関わってきた。


中には、【竜の牙】の面々の様な天才と呼ばれる部類の奴もいたし、一芸に特化した化け物みたいなやつもいた。


そいつらは皆、世間からは強者と認められ、畏怖と畏敬の念を抱かれていた。


だが……


「こと、才能という面で見れば、誰一人として彼奴らの上を行く奴はいない。」


それ程までの、圧倒的な才覚。


「あの才能が開花した時、勝てるやつは殆ど居ねぇんじゃねぇかな。経験とか、作戦とか、そんなんで勝てるほど生易しいもんじゃねぇよ。」


「そうか。…………なぁ、ローワン。」


「なんだ?」


何か言いづらそうに、躊躇いながらも、強い意志を感じさせる声音で、ギルマスは声を出した。


「……荒れると思うか?」


……ギルマスが懸念しているのは、嫉妬や僻みの類だろう。


あるかないかで言えば……


「間違いなく、な。」


こんな30超えたおっさんが、思わず嫉妬しちまいそうになる程だ。


きっと、若い奴らは抑えられない。


ギルマスでも抑えられないような、そんな暴走をしちまう輩もいるかもしれない。


俺にも、若いヤツらに知り合いはいるし、そいつらが、彼奴らに歪んだ嫉妬を持たないとも限らない。


どうにかしてやりたいとは思うが、感情それは、俺達がどうにかできるものでもないだろう。


「……そこまで心配してると、身が持たねぇぞ。もし、何かあってもそれはお前のせいじゃない。気を回しすぎるな。」


一応忠告はするが、無駄なんだろうな。


こいつは、良い奴だから。だから、色んなもんを背負っちまう。


だからせめて、少しでもその重荷を持ってやりたくなる。


「……馬鹿どもが何かしても、俺の方で適当に対処しとく。」


「……すまん。」


「気にするな。」


――――恩返しみたいなものだからな。


声には出さず、そっと心の中で呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る