第11話 追放白魔道士、冒険者の戦闘を語る


飯を食い終わり、訓練所に戻る。


「午後からは、武器の扱いを教えていく。疲れているとは思うが、手は抜くなよ?冒険者は、常に疲労が溜まった状態で戦うと言っても、過言ではない。つまり、君らは今の状態で戦えるようになる必要があるということだ。」


冒険者が戦闘にはいるのは、討伐対象を森や山の中を見つけてからだ。


討伐対象の発見にどれだけの時間がかかるかもわからず、森などの足場が悪い中を歩き回る。


そして、対象を発見すれば、そこでようやく戦闘だ。


そんなプロセスが必要な冒険者が、万全な状態で戦える事など殆どない。


疲労が残った状態でも、体の動きのキレを落とさないような、そんな強さが必要なのが冒険者だ。


ただ単に、強ければ優秀な冒険者と呼ばれる訳では無い。


強いだけの冒険者の評価は、驚く程低い。


その理由は、冒険者の戦闘スタイルにある。


「ミュリネ、森で魔物を見つけた時、お前はどう戦う?」


「ん?そうだな、前衛に魔物を引き付けてもらって、その隙に黒魔法で仕留めるかな。」


「何故、そうする?」


「相手を倒す程の威力の黒魔法は、準備に時間がかかるし、無防備になるから。」


そうなることもあるだろうが、初手でそれは悪手だな。


「何故、わざわざ真面に戦う必要がある?」


「へ?」


俺の言葉が理解出来ていないのか、ミュリネは目を丸くしている。


「そもそも、冒険者の目的は依頼の完遂だ。討伐依頼であれば、その対象を倒すことが目的で、更に言えば素材となる部位には、ダメージが少ない方が望ましい。」


となると、


「冒険者の戦闘は、隠密からの奇襲一択だろ。」


素材の損傷を最小限にしつつ、戦闘での消耗も少ない。


「た、確かに。」


ミュリネは、俺の答えに納得したのか、何度も頷いている。


だが……


「戦闘を、隠密と奇襲で終わらせている冒険者は少ない。」


この言葉が衝撃だったのか、三人は目を見開き次々に俺に言葉を投げる。


「なんでですか!?」


「おっさん騙したのか!?」


「どうして……!?」


理由は二つ、簡単な事だけどな。


「そもそも、隠密は高等技術だ。音を立てないとか視線を向けないとかの、基本的な技術ならまだしも、気配を抑えるのは難しい。」


気配を抑えるには、普段誰もが垂れ流している魔力を完全に押し留める必要があり、それにはかなりの技量が必要になる。


「だから、冒険者は、隠密からの奇襲という戦法を取らない。」


「じゃあ、Bランク以上の人は?」


俺の言い方に引っかかったのか、珍しくマティナが俺に聞いてくる。


「Bランクにもなると、そもそも意味が無くなる。ていうか、寧ろデメリットがメリットを上回るようになるからだな。」


「どういうことですか?」


「簡単な話、Bランク以上の冒険者ともなれば、大抵の魔物より先に相手を見つけるし、奇襲なんぞなんかしなくても一撃で倒せるからな。依頼になる魔物で、Bランク以上はなかなかいない。そうなると、ほぼ全ての依頼対象が格下になる。」


これがする必要が無くなる理由。


で、デメリットってのが


「隠密はあくまで気配を消すだけで、視覚的に見つからなくなる訳では無い。もし、見つかった時魔力の反応が弱ければ、魔物に格下と看做され襲われるんだ。だから、よっぽどのことがない限り、Bランク以上の冒険者は、隠密も奇襲もしない。」


そんなわけで、Bランク以上の高ランク冒険者達は、隠密行動をすれば寧ろ面倒が増えてしまう。


それでも、隠密をしてる奇特な奴らは数人いるがな……。


「ま、低ランク帯の冒険者は隠密が出来ねぇから、三人ができるようになれば明確な差が生まれるぜ?」


強くなればなるほどに、必要性が低くなる技能ではあれど、持っていて損は無い。ぜひ習得してもらいたいものだな。


「あの、どうやったら隠密は出来ますか?」


エルシャの質問に、俺はあっけらかんと答える。


「準備自体は、もうしてるだろ?君ら。」


「「「え?」」」


「なんで魔力操作を、走りながらやるよう言ったと思う?」


「動きながらでも、魔法を撃てるようにって……。」


ああ、確かに俺はそう言ったな。


「それある。だけど、動きながら、精密な魔力操作ができるってことは、それだけ操作技術が高いってことだろ?」


まぁ、要は体力をつけるための走り込みと、動きながらでも魔法を撃つための練習に加えて、隠密をできるようにする魔力操作の鍛錬でもあったってことだな。


そもそも、


「魔法撃つのに、あそこまで精密な操作は必要ねぇだろ。|と、現象をイメージしながら、魔力を込めるだけで魔法は発動するだろ?血管レベルでの操作なんかする必要ねぇよ。」


魔法を覚えるには、数少ない例外を除き、その魔法の魔法陣に魔力を流し発動する必要がある。それさえ終わらせれば、その魔法陣は魂に刻まれ、二度と忘れることは無い。


魔法陣は使い回しが効くし、そこまで高価なものじゃない。平民にも、十分手が出せる程度だ。


その魔法の適正が低ければ、最初の発動には苦労はするけどな。


「た、確かにそうですね。」


「……なんでわからなかったんだろう。」


「言ってくれれば良かったのに。」


「言われなきゃ気づけない時点で駄目だろ。」


ポツリと零したマティナに、その考えの甘さを説く。


「冒険者になりたいってやつが、思考停止してどうする。世の中良い奴ばかりじゃない。君らを騙そうとするやつなんか、幾らでもいる。そんなヤツらが、何をしようとしてるかなんか、教えてくれんぞ?」


ハッとなにかに気づいたかのような表情をしたあと、悔しげに俯く3人。


「常に思考を止めるな。そこに、なんの意図があるのかを考えろ。全ての可能性を考慮しろ。全てを疑え。それが……冒険者のあるべき姿だ。」


……これぐらいにしとくか。


あんま言いすぎても、あれだしな。


こいつらなら、俺の言葉もちゃんと聞いてくれるだろ。


そんで、冒険者として大成するはずだ。


…………きっとな。

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