第10話 追放白魔道士、うっかりする
「う……うう……。」
「死ぬ……しぬぅぅ。」
「……うっぷ……。」
日が登りきった頃には、俺の前には死屍累々な光景が広がっていた。
「かなりゆっくりにしたと思うんだが……。」
一応、まだ子供でもあるしギルドに登録したばかりということもあり、ペースは遅めに設定していたのだが、どうやらそれでも速かったらしい。
「ちょっとずつペース上げてく予定だったんだけどなぁ。もうちょい落とすか。」
ピクっ
俺がそう呟いた瞬間、三人がピクリと反応する。
…………。
「やっぱ速めるか?」
ピクッッ!
……何か楽しいな、これ。
「ほれ、さっさと立て。飯行くぞ。」
冗談は終わりにして、3人に疲労回復の魔法をかけながら立つように促す。
そうすると、三人はふらふらと幽鬼のように立ち上がった。
「ギルドの飯は美味いぞ、速くしねぇと売り切れになっちまうかもな。」
言うが早いか、三人は斥候もびっくりのスピードで走り出した。
「……売り切れになってるとこ見たことねぇけど。」
ぽつりと零しながら、3人の後を追う。
……食いしん坊キャラだっけ?あいつら。
訓練所を出て、すぐ右に曲がると併設された酒場に着く。
三人を連れ、受付のおばちゃんに4人分の飯を注文する。
「おばちゃん、4人分頼むわ。これおだいね。」
4人分の金を払いつつ、席へ足を運ぶ。
朝はそれなりのメニューがあるこの酒場だが、昼に限っては一つしかメニューがない。
朝は飯屋として、夜は酒場として機能するここだが、昼はギルド職員の休憩場所になる。
職員の休憩時間は短いため、昼食の時間を少しでも減らすためにメニューが設けられていないのだ。
ということを、新人の三人に教えながら飯が来るのを待つ。
ついでに、忘れて……聞く必要が無いと思っていたことも聞いておく。
「君ら、自分のステータス見たことある?」
ステータスの説明はしたが、実際に見せていなかったので、聞いておく。
「さ、3人とも見たことない……です。」
不安そうにこちらを見上げながらそう言うエルシャ。
「じゃあ、今のうちに見とこうか。簡単にできるしな。」
ステータスは、冒険者にとっての生命線であり、必ず知っておくべきことだ。
だから、忘れるなんてことは無い。その証拠に俺も忘れていない。うん、忘れていないとも。
「まず魔力を手に集めろ。どっちの手でもいいが、利き手の方がいいな。そんで、その魔力を板状に放出しながら、ステータスって頭の中で唱えろ。」
そこまで難しい魔力操作は要求されないし、午前中あれだけ魔力操作をしていたこともあり、三人ともが問題なく発動できた様子。
「一人一人、見えたものを教えてくれ。」
本来冒険者同士での、ステータスの公開は控えた方がいいが、教育係をやる以上、知っておいた方がいいことは間違いない。
他人が出したステータスは見ることが出来ないので、本人に教えてもらうしかない。
見た後に、忠告しておこうか。
そんな訳で、三人のステータスがこうなっている。
――――――――――――
エルシャ 十歳
【白魔術師】Lv1
体力 6
魔力 14
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――――――――――――
ミュリネ 十歳
【黒魔術師】 Lv1
体力 5
魔力 15
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――――――――――――
マティナ 十歳
【赤魔術師】Lv1
体力 8
魔力 12
――――――――――――
まぁ、ステータスは同じ
まぁ、戦闘中にこれを出すことが出来たら、ペース配分もかなり楽になるしな。
冒険者に限らず、万人の必須技能だ。
「一応忠告だ。どんな理由があっても自分のステータスを開示してはならない。教育係としては教えてもらいたいが、これから先、見せたくないなら見せなくていい。初期状態なら大きな問題は無いが、成長するにつれて見せたくないものも増えてくるだろう。他人には勿論、パーティーメンバーにも極力自分のステータスは明かすな。」
パーティーメンバーだからと言って、100パーセント信用出来る訳では無いしな……。
三人は神妙な面持ちで頷いてるし、大丈夫だろう。
もうそろそろ飯もくるし、もうひとつ話しとくか。
「これから先、合同で別パーティーと依頼をすることもあるだろうが、そいつらに職業は教えてはならない。だが、連携をする必要がある以上、何が出来るのかを知って置く必要はある。」
ここで一度区切り、三人を見る。
「そんな時は、職業ではなく自分の役割を果たし明かせ。回復やメンバーの強化をする役割なら白魔道士、攻撃魔法で敵を仕留める役割なら黒魔道士、武器を使い近接での足止めや攻撃をする役割なら赤魔道士、と言ったふうにな。」
まぁ、職業から離れたことをするやつは少数派だから、この言い方ではどの系列の職業なのかは分かりやすいが、自分の手の内を全て明かすことなく役割を伝えられるので、冒険者は皆この言い方を使っている。
逆に、職業や系列を言うやつは信用しないというような風潮もある。
特に新人が合同パーティーを組む時に、職業を言ってしまうことが多いので、新人だと侮られたり、騙そうとしているのだと思われ、詐欺師として警戒されてしまったりする。
そうならないために、ギルドでも講習をしてはいるが、冒険者になる大半の人間は、それ以外に道がなかったものだったりするので、真面目に話を聞くやつがいなかったりする。
Cランク帯の冒険者が多い理由には、そういったいい加減なところが昇格の査定に響いていたりするのだが、本人達はそれに気づかないまま、ずるずると沈んでいく。
救いようがないねえ、まったく。
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