第9話 追放白魔道士、少女達を追い込む


「くあぁ〜、ねむ。」


早朝、太陽も見えない時間帯に、俺は覚醒した。


「つっても普段と変わらねぇけど。」


大半の冒険者は、とりわけ長い月日を冒険者として過ごした者は、ギルドが依頼を張り出す前に活動を始める。


これは、依頼の受注が早い者勝ちであり割のいい仕事を請け負うためのものだ。……が、それだけの為に早起きをしている訳では無い。


その程度のことを心配するのは、最も人数の多いDランクからCランクの冒険者程度であり、それ以上のランクのものは、依頼を奪い合うなんてことはしない。


なぜなら、そもそもBランク以上は人員が少なく、常に美味しい依頼が張り出されているからだ。


熟練の冒険者は、早朝から自分の体の動きを確かめる。


その日の体調や魔力の流れ、自分を万全の状態に持っていく為に、毎朝訓練所にて動いているのだ。


「まぁ、俺は家でやるけど。」


勿論、ギルドの訓練所以外の場所でそれを行うものもいる。俺のようにな。


そんなわけで、起きる時間は変わってないんだよねぇ。


シュボッ


煙草を咥え、火をつける。


紫煙を吐き出した気持ちも切り替える。


「あ〜、ルーティン終わらすか……。」


一言呟いて、地下へと進む。


俺が住む家は、別に豪邸という訳では無い。ただ、一般宅よりは、少し大き位ぐらいだ。


Bランク冒険者で、金はそこそこ有るとはいえでかい家に一人で暮らす、ということにそこまで惹かれない。


メイドや執事なんかいらねぇしな。家では一人でいたい。だけど、大きすぎるのは嫌。


そんな訳で見つけてきたのが、二階建ての現在俺が住む家というわけだ。


土地ごと買った割には、そこそこ安く自分で勝手に手を入れるのも自由なので、かなり重宝している。


そのおかげで、毎朝の確認作業も、作った地下で行うことが出来ている。


「いや〜、あん時の兄ちゃんには頭が上がんねぇよ。」


薬袋もないことを考えながら、地下へ降り確認作業を終わせ、汗を流す。


「そろそろ行くか〜。」



ギルドに着き、併設された酒場に足を運ぶ。


「おばちゃん、いつものくれ。」


「日替わり定食ね。ちょっと待ってな。」


おばちゃんに注文をだし、テーブルに座る。


今日の予定を反芻している内に、テーブルの上に料理が置かれる。


「はいよっ、おまちどう!」


「朝から元気だねぇ。はいこれお代。」


腰に着けた皮袋から銅貨を5枚だし、おばちゃんに渡す。


「あんたもうちょいいいもん食ったらどうだい?稼いでんだろ?」


俺が出した金を受け取りながら、おばちゃんはそう言葉を吐いた。


「ここのレベルが高いんだよ。そのくせ安いし。」


事実、この酒場は繁盛していた。朝であり、酒も出ないにもかかわらず、ここが冒険者に利用されるのは、俺が言った通り、飯の美味さと安さだ。


今も、そこら中のテーブルで、ほかの冒険者が舌鼓を打っている。


俺も負けじと、出された料理を頬張り、食事を続けていると、こちらに向かってくる三人の気配を感じた。


「飯はちゃんと食ってきたか?」


そう尋ねると、


「は、はい、昨日食べるよう言われましたから。」


「美味かったぞっ!」


「……普段、朝は、あまり食べないのだけど……。」


若干1名グロッキーだが、飯は食ってきたらしい。……貧血か?顔色悪いんだけど。


「そうか。俺も食い終わったし、訓練所行こうか。」


腰を上げ、訓練所に足を運ぶと、三人は親鳥を追う雛のように後ろを着いてきた。


……これ大丈夫か?衛兵のお背はになんのは嫌だぞ?……昨日からこんなんばっか考えてんな俺。


頭を振り、思考を戻す。


「今日は、型を覚えるのと、体力作りだな。午前は走り込みと魔力操作。午後からは武器を使う。質問は?」


問いかけに答えたのは、エルシャ。


「えと、走り込みと魔力操作はどっちを先にやるんですか?」


「同時だけど?」


エルシャの問い掛けに、俺は端的に返す。


体中の魔力を操作し、血流の様に回しながら、訓練所内を走らせる。


これは、魔法の発動を動きながらでもできるようにする訓練でもある。


落ち着いて立ち止まって、精神を集中させて打つなんてことを、実践では出来ないからな。これができなきゃ、魔法使いは戦闘中、カカシになっちまう。


それを防ぐ為にも、後体力をつけるためにも必須ノ鍛錬だな。


頭の中で納得していると、エルシャが再度言葉を発する。


「あの、それってどのくらい……?」


……どうしよっかな。何処まで追い込むべきか。あまり追い込みすぎると、潰れちまうかもしれな……、いや、こいつらなら大丈夫か。


なんだかんだ、最初のゴーレム戦はくぐり抜けれてるし、とことんやろうか。


「……取り敢えず、ぶっ倒れるまでやろうか。倒れんの早かったら、回復してからもっかい行っとこーか。」


満面の笑顔でそう告げる俺に、三人は絶望した顔を覗かせる。


「鬼っ!悪魔っ!おっさんっ!」


「けっけっけっ、そいつは褒め言葉だな。」


罵声を浴びせるミュリネにそう返し、早速準備を進める。


「3人とも、こっちこい。」


「「「?」」」


近づいてきた三人に手を出させ、そこから三人の魔力に干渉する。


「今からする魔力の動き覚えとけ。それを、走ってる時にできるようになれば、魔力操作は一先ず終わりだ。……走り込みは続けるけど。」


希望を失ったかのような彼女たちを無視して、三人の魔力を動かす。


「いいか?魔力操作の基本は、血管に流すように動かすことだ。それが一番想像しやすいからな。全身に魔力を行き渡らせ、体から漏らすことなく全身を巡る。……これが最初の目標ってとこだな。先ずはここを目指せ。」


そう言って、魔力操作を終わらせ、3人を見渡す。


「今のをしながら、訓練所内を走れ。最初は上手くいかんと思うが、まぁ、頑張りな。」


「「「はい!」」」


「じゃ、はじめ!」


走り出した彼女達の後ろから、魔法を追わせる。


「ペースはが落ちすぎたり、サボったりしたらそいつから電撃食らうから、がんばれよぉー。」


「そんなっ!?」


「やっぱ鬼ーっ!」


「……朝は、しんどい……。」


あっはっは、若いうちは無理してなんぼだぞ、若人よ。


死にはしねぇし、全力でやるだろあいつらなら。


…………死なねぇよ?多分。

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