第8話 追放白魔道士、武器を作る②


「……決めました。」


マティナが武器を片手に、近づいてくる。


その手に握られているのは、果たして刀だった。


「刀か。また随分と癖のあるもんを選んだねえ。」


片手剣の中でも特に異質。


別世界の技術の粋を詰め込んだ、斬ることに特化した反りのある片刃の剣。


必要となる技術の高さから、大半の人間からは選ばれない、使い手を選ぶ武器だ。


「これなら片手でも持てますし、軽いので取り回しも楽です。」


「……使いこなすのはかなり難しいぞ?」


「問題ありません。使いこなしてみせます。」


いいね、おじさんそういうの好きよ。


気合い入れて教えねぇとな。少なくとも、俺を超えるぐらいには頑張ってもらいましょうかね。


「じゃあ、この中ならどれがいい?」


そう言って、長さの違う刀をいくつか作る。


それを握り、振るうマティナ。


「この中なら、これがいいです。」


そう言って、平均より少し長い刀を渡してくる。


「じゃあ、これは?」


重心を変えた、同じ寸法の刀を作り出し、差し出す。


いくつか振った後に、一つの刀を握るマティナ。


「これがいいです。重心が手前の方が、扱いやすいんですね。」


二番目に重心が手元に近い刀を選んだマティナに、四番目の刀を差し出す。


「じゃあ、これ使え。」


「え?」


困惑の表情を浮かべるマティナに、説明する。


「今のマティナは、なんの鍛錬も行っていない素人だ。これから刀を使っていけばわかると思うが、習熟すればするほどに、刀の重心は手元から離れていく。それは取り回しの技術が上がることで、取り回しのメリットを威力減衰のデメリットが上回ることで起きる。」


視線を向けるとマティナは、真剣に聞いているようなので、話を続ける。


「俺の今までの経験から、刀を持ち始めて、重心の位置を離すのは、どんな天才でも2段階までだ。つまり、マティナが最終的に扱うことになる刀は、それになるはずだ。まぁ、多分だから、従わなくてもいいぞ。さっき選んでたやつにしても、俺は何も言わない。」


そう言うと、少し悩んだ素振りを見せたが、すぐにこちらを見上げ、


「これにします。」


言い放った。


いいんだ……。あんま信用されるような人間じゃないと思うんだけど、俺。


紫煙を吐き、頭を掻きながら言葉を発する。


「じゃあ、二人の武器選ぶからちょっと待っててくれ。すぐ終わると思うけど、休憩とかしてていいよ。」


それだけ言って、俺は二人の方に向かう。


先ずは、ミュリネからだな。


「どれにするか決めたか?」


ミュリネは、こちらにマンゴーシュを掲げてみせるミュリネ。


……お前ら癖のある武器しか使えねぇの?もっとオーソドックスなやつでいいじゃん。そういうの選ばれると、俺の負担増えるんだけど?


……教えるけどさ。使えるし……。


「……あ〜、なんでマンゴーシュ?それ本来は、利き手と逆の手で使うサブウェポンなんだけど。」


「えっ、そうなの?……でも使いやすいし、これでいいや。軽いし、防御にも使えそうだし。」


……まぁ、いいか。ミュリネだし。適当になるとは思ってたし。


短剣類なら重心とか気にしなくていいし、そこは楽だな。ナイス二人とも。


「じゃ、エルシャは?」


「わ、私はこれで……。」


そう言って、ダガーを差し出すエルシャ。


……そう、それでいいんだよ、エルシャ。王道じゃん、オーソドックスじゃん、普通じゃん。


ありがとうエルシャ。君のおかげで、癖強三人衆にはならずに済んだよ。もう二人揃ってるけど。


「ダガーを選んだ理由は?」


一応聞いておかねば。これで決めさせたいけど。


「あまり、特殊なものは扱えそうにないので……。あ、あとは軽いから、です。……えへへ。」


照れ笑いを浮かべるエルシャ。


守りたい、この笑顔。


何に照れてるのかは、分からねぇけど。


天使はここにいたのだ。俺の負担を減らしてくれる天の御使いだ。


おお、神よ。この子を送ってくれてありがとう。……だが、俺に面倒を負わせた罪で貴様は地獄送りだ。f〇ckYou、God.




三人の武器は選び終わったし、あとは型を教えて慣れさせるか。実践は、その後で俺とやればいいや。


さっきみたいにゴーレムにさせんのもありだけど、最初から体格差あり過ぎるときついしなぁ……。


俺とやって、慣れてきたら小さめのゴーレムとやらして、どんどんでかくしていこう。そうしよう。


……俺がやるのが面倒とかじゃないからな。いやマジで。煙草吸いながらボケーッとしときたいとか思ってないから。ほんとほんと、ローワンウソツカナイ。


「時間も遅いから、続きは明日にしようか。」


3人を集め、明日からの予定を話す。


「最初は型を覚えるところからだな。その後俺と立ち会って、慣れてきたらゴーレムともやろうか。」


「「「はい!」」」


微笑ましいねぇ、こんなおっさんが教育係とか世の中ほんとどうにかしてるよな。


今すぐ辞めたいどっかの高ランク美女冒険者と変われねぇもんかなぁ。


他愛も無いことを考えながら、口を動かす。


「明日は、あー、そうだな、2回目の鐘迄にここに集合な。飯はちゃんと食ってこい。」


「わ、分かりました。」


「はーい!」


「分かりました。」


3人から色よい返事が帰って来る。


「よし、じゃあ今日はもう解散。しっかり寝ろよ、ガキ共。」


俺は身を翻し、訓練所を去る。


「……何処までは行けるだろうなぁ、あいつらは。」


紫煙を吐きだし、ぽつりと零す。


「……才能だけで言えば、。」


俺には無い、才能と呼べるものが彼女たちには確かにある。どれ程願い、恋焦がれようとも、ついぞ手にすることが出来なかった才能モノが。


「……あれから、もう20年か……。俺は未だに、自分が許せねぇよ。……。俺は、どうしたら前を向けるんだろうな……。」


辺りには、煙草の煙だけが揺らめいていた。


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